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ごっこ遊びはもう終わり

もう後がなかった。嫌だよどうしてこんな事になってしまったんだ。
俺は匡兄が笑いながら、酷く優しいくせに鳥肌をたたせるような猫撫で声で俺を呼ぶ、それに必死で耐えている。
季之、なぁ、としゆきぃー。
気付かれたく無かったんだ、気付かれない方がよかったんだ。俺は匡兄に、知られたくなかったんだ。
だって俺は、バカだからあんたに夢を見てしまったんだから、あんたとずっと一緒にいたいなんて思ってしまったんだから、
その為にこんな柔らかな愛撫はいらないんだ。そうだろ?俺達は兄弟だって、また言ってくれよ。頼むから、ねえ。匡兄。
ベッドに潜り込んで丸くなって、俺は匡兄が優しい声で俺を撫でるのをやり過ごそうとする、聞こえないふりをする、
ずっとそうしてきっと朝になればまたうまくいく。
怪談なんかと一緒だ、朝までの、粘つく様な長い時間を耐え切れれば。
「何寝たフリしてんだよー」
毛布のすぐそこ、舌先で擽られるような距離だ。匡兄は笑ってて、なー、俺嬉しかったのに、なんて言うから俺の我慢が揺らぐ。
ぐらぐらと、寸前で踏み止まり目を瞑る、声は追いかけてくる、俺もお前が好きだよ季之。
それは、俺が一番欲しくて、一番いらなかった言葉だ。

我慢できない。俺は毛布を跳ね上げて、それに驚いていて目を見開いた匡兄を思い切り突き飛ばした。
匡兄は驚いた顔のままよろけてベッドから落ちる。
「なぁにすんの、お前、スキンシップには乱暴だろぉ」
声はまだ甘く溶けている、嬉しいよって全身で言っている。それが俺にはたまらない。
駄目だよ匡兄駄目なんだよ、俺達はここを超えたら絶対駄目になるってわかってんだよ、
これは被害妄想とか不安とかじゃなくて絶対だよ。
俺とあんたはきっと駄目になる。兄弟ごっこしているのが一番いいんだ、なああんただって知ってただろ。
だからずっと、それに付き合ってくれてたんだろ?
口を滑らせたのは俺のミスだ、ミスなんだけど、お願いだから忘れたフリをしてまた戻って欲しい。どうにか。
ねえ、どうにか。
「なー、としゆきぃ、もっかい言って」
俺の事好きだって。
俺が願ってる間も、匡兄は優しくも残酷なおねだりをする。
「やだよ間違いだしあれ」
「嘘だぁ」
愛が溢れてたから俺にはわかんの。
そんなイラッとする言葉でもって、俺を責める。

俺は頭を抱える。いやだ、こんなのは嫌だ。あんたは俺の兄貴でいてよ。
ちょっとバカで頼りないけど、意外と真面目なところもある、そんな兄貴でいてよ。
俺を弟だって言って、なあもう一回。
匡兄の目は熱を帯びていっそ狂気に染まっているように見える。
つまりはそれだけ我慢してたんだって、きっとあんたは言うんだろう。そうだろう、俺がそうだから多分そうだ。
でも俺は戻りたい、ついさっき、数十分も経ってないそこに。俺達が触れる事に意味が生まれなかった頃に。
「季之ぃ」
「やだ」
「何が」
「やだよ」
俺はその言葉と一緒に手を払った。明確な意図で、匡兄をまるで殴りつけるみたいに。
思ったよりも鋭く俺の手は匡兄の肌を擦り、まるでひっぱたくような形で匡兄の顔が横向く。
妙にスローモーションで、小麦粉とかの袋殴ってるみたいな変な感触、匡兄がぐるりと俺の方に向き直る。
「痛いよ、としゆきー」
それなのに匡兄は、俺を責めない。頬を擦りながら、それでもまだ嬉しいんだと言っている。
「な、季之。キスしよっかぁー」
俺が口なんか滑らせなかったら。
「やだ」
「どーして」
「絶対しない」
「なんで?」
俺も、お前が好きだよ?
そんな言葉でやっぱり俺を傷つける。あんたって酷い人だよ。きっかけはそもそも俺だけれど、ねぇ、だから嫌だったんだよ。
こんなに簡単に、やっぱり壊れるじゃないか。いつか全ては壊れるもんだなんて俺は思っていたけどさ。
それでも匡兄、あんたとは壊れないでいたかったのに。
「近寄んなよ」
今度はさっきより強く。近づいてきた顔を引っ叩く。
指先が笑う。伸びてくる。俺に触れる。嫌だ。こんなに幸せそうなのに、辛い。
俺はちっとも幸せな気分になんかなれない。
だってこれは、終わる合図でしかないじゃないか。
どうして同じ気持ちなのに、こんなに辛いんだ。
教えてくれよ、教えてくれよ、もう一度兄貴になって教えてくれよ。
あんたのどっかズレた答えにも今度はちゃんと頷くから。


ねえ、お願いだよ。