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噛み合いっこ

「痛いって!やめろ!」
いつものことだから後ろに回られた途端すぐに避けたつもりだったのに、俺の肩にはくっきりと赤い歯型が残ってしまった。
「あーあ…」
長袖の季節ならまだしも、夏だから肩をだすこともあるのになぁと毎度のことながらうんざりした。
そんな俺の表情に、森下はニヤニヤと底意地悪そうな笑顔を浮かべて「ごめんごめん」と言った。反省の色なんかこれっぽっちも見えない態度である。
「反省してるならやめろっていつも言ってんだろ馬鹿野郎」
「愛情表現だって。つーか、お前だってノースリ着なきゃいいじゃん」
「何で俺がお前に合わせて服選ばなきゃならねぇんだよ。ふざけんな」
もう別の部屋に行こう、と思い、読んでいた雑誌と飲みかけのコーラを手に立ち上がった。
そうして森下に背を向けると、背後から「どこ行くんだよ」と聞こえた。
「別に」
「答えになってねぇし」
「どうして噛み付いたんですか、って訊かれて、愛情表現です、って答えるよりはマシだと思う」
「…」
森下が黙った。
俺達にとっては、くだらないことに、ここまでが毎日の恒例行事なのである。
森下は俺よりも10も偏差値の高い高校に通っているのに、いつも馬鹿げた行動を起こして、それに輪をかけて馬鹿げた言いがかりをつけて、結局いつも俺に言いくるめられる。
そして…
「あ、そうそう森下」
振り向くと、何故か森下の顔つきがぱっと明るくなった。
「これに小川が載っててさぁ。ガイヤが俺にもっと輝けと囁いてるとか書かれてるんだけど」
そう言って俺が本を差し出した途端、森下も手を伸べた。
「マジ!?あいつ中坊ん時根暗メガネだったじゃん!」
森下が興味を見せた途端、その指先に噛み付いてやった。
「いてっ!いてーよ!」
いつも仕返しされてんのに何で気がつかないのか毎度のことながら不思議なのだが、森下は慌てて手を引っ込め、俺に文句を言った。
「何だよ!ったくよー」
「何って、愛情表現だし…」
俺が言うと、森下は嫌そうな顔をして、「夜は覚えとけよ」とか何とか捨て台詞を吐いた。
「(別にいいだろ。そのときは俺が何も言えなくなるんだし)」
そう思い、後ろでわめく森下を置いて、本当は小川なんてどこにも載っていない雑誌を別室でゆっくり読むことにした。