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葉桜はきらいだ

「身分違いの者が無理矢理寄り添っているようで、嫌いなんですよね。葉桜」
そんな洒落こいたことを呟きながら、八重樫は放課後ここへ来て二本目の煙草を消した。
三本目に手が伸びたので、我にかえってそれを止めた。
「八重樫、いつも言うけどここは禁煙だよ」
「それ以前に生徒の喫煙を嗜めるのが教師の役目では?」
…もっともだ。普段から見慣れていたせいで注意するのを忘れていた。
「そもそも葉が先で花は後でしょうに。順番がおかしい」
それだけ言うと八重樫はふぅ、と煙を吐いた。
髪の隙間まで燻されていく気がする。思わず眉間に力が入る。
「そんなイヤな顔しないで下さいよ、先生」
「生徒会長なんて名ばかりだな、お前みたいなのが一番危ない」
「だから、息抜き」
「お前の息抜きは私の息が詰まるんだよ」
八重樫は窓際の長椅子に腰掛けると、室内履きのサンダルを脱ぎ捨てて胡坐をかいた。
空気の濁ったこの部屋とは対照的に、外からは生徒の声が聞こえてくる。桜に一喜一憂する、健全な歓声。
その声に八重樫は一層不機嫌になる。
桜が、いや葉桜が嫌いだからか。
「八重樫」
「……」
返事はしないが、聞いているはずだ。

「八重樫、葉桜が嫌いなんて、身分違いとかって言うなよ。お前の中ではどっちが上なんだ?そんな、上とか下とか関係なく…」
八重樫は遮るように一際長く煙を吐いた。
圧されて黙る。
目に見えて曇った室内で、先に喋ったのは八重樫だった。
「先生、俺ね、ももが好きなんです」
「何言ってんのお前…」
「ももが好きなの」
「桃は関係ないだろ今」
「あるでしょう、俺と先生の二人しかいないんだから。今」
「っわ、私は"百瀬"だ、"桃瀬"じゃない!」
「そんな、字面でしかわかんないことを。口にだせば一緒じゃないですか」
「お前な」
「先生、ありがとうね」
「なにが」
八重樫はこれまでの私の反応からなにか察したらしく、一段と偉そうに笑って言った。
「灰皿、用意してくれてた」
「……名前書いとけよ、82代生徒会長八重樫って」
「先生に?」
「灰皿に!わかれよ俺の嫌味!」
「下手くそ」
そう笑った八重樫は、葉桜もいいですねぇ、と意味のわからないことを言って煙草を消した。