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朴訥無口×わかりにくくデレる俺様

「この小説って実体験が元になってんの?」
「あ、いや、違う・・・」
「ふーん。お前も兄貴亡くしてるだろ?この辺のカズヒコの喪失感って自分で感じたことじゃねーんだ」
「違うけど、その時の担当さんも少し私小説ぽいって・・・」
「やっぱ言われたのか。つか私小説でよく賞もらえたな」
「その後の展開、俺と全然違うから…」
「確かに、年齢誤魔化して夜働くタイプじゃないもんな。じゃあそんな見当違い言われてムカつかなかったのか?」
「・・・少し、似せた自覚あったし」
「兄貴のことくらいだろ?今の編集の・・・児島さん?お前の意向とかちゃんと汲めてんの?てかお前そんな言葉ったらずで
 よく小説家なんてなれたと思うわ。賞までもらってそこそこ売れて、この度めでたく処女作が映画になって、幸運残ってんの?」
「どうだろう・・・」
「まあ、俺と付き合ってる時点で幸運を超えた奇跡を手にしてるか。いざとなったら
 贅沢のぜの字も知らない田舎ものの引きこもり一人くらい俺が養ってやるから感謝してヒモになれよな」
「あ、ありがとう」

『―鯨幕に風花が散り、桜のようだと学生服の参列者が漏らした。肩に地面に落ちる間もなく消えるそれらは、
 もうすぐ本物の花弁に変わるだろう。冬と春の境界の雪だ。そして、兄は永遠にこの線を越えられない。
 真白い顔を眺めながらカズヒコは、兄が不在の残りの人生を考える。―』
「・・・北海道ってこの時期でもそんな寒いのか?分厚い上着いるか?」
「いるかも・・・さくら君行くの?仕事?」
「まあなー。これのさー・・・」
「あ、ごめん電話・・・児島さんだ」
「タイミング悪ぃなあ。とれば」
「ごめん・・・はい、もしもし…」



「・・・お待たせ…あの」
「何だよ」
「さくら君、カズヒコ役って」
「あ?あー電話それか。本当にタイミング悪いな」
「あの・・・」
「んだよ、そりゃこんな冴えない芋男とはいえ一応賞もらった人気作家の初映画化で話題あるし、だから
 俺に是非って話がきたんだよ。コテコテのカンドー作に出るのも悪くないしな。俺の演技の幅も見せられる」
「・・・」
「で、カズヒコの為に髪まで黒染めしたってわけ。どっかの誰かは気づきもしないけど」
「えっあ、似合ってると思ってた…」
「はいはい。でな、このロケから戻ってすぐ舞台あるから明日からその稽古ぶっ通すんだ」
「あ・・・じゃあ」
「うん、しばらく来れない。お前が寂しいだろうな、と思ってやりくりして休み作って来てやったわけ」
「ありがとう・・・」
「しとく?明日は読みあわせであんま動かないから」
「うん・・・えっ!・・・うん」
「じゃあ風呂入る。お前も来れば」

『先生お疲れ様です。え?いえいえ締め切りの話じゃないですよーあの、朝倉春哉さん。今結構ドラマや雑誌によく出てる売れっ子なんですが
 ああ、よかったご存じでしたか!その朝倉さんなんですが、今度の映画是非主演やらせて欲しいって突然監督さんにご本人から連絡あった
 らしいんです。先生は全てお任せするって言ってみえましたけど、えーっと、朝倉さんってカズヒコのイメージと少し違うから。もし
 ひっかかるようなら私から監督さんに伝えることもできるので・・・という、電話ですが・・・・・・あ、いいですか?あはは、即答ですね、実はファン
 だったりしますか?へえ…いえ、なんかイメージになかったので…とにかく良かった、了解しました、伝えておきます。』


「おい、何ぼさっとしてんだ。常々思ってたけど俺の隣でぼさっとするか普通」
「あ…ごめん」
「はいはい口だけだなー。そうだ、俺あっちからちょくちょく電話すると思うから、ちゃんと携帯電源入れとけよ」
「え、うん…珍しいね?」
「細かい確認。平凡カズヒコの気持ちはお前がよくわかってるだろ。やるからには完璧に演技したいんだよ。」
「でもカズヒコは俺ってわけじゃ」
「そうじゃなくても、お前が書いたんだろ、ばか。監督の方針優先にはなるけど、原作者の意見も尊重する役者でいたいし。まあ何より
 一番に自分のセンスを信じてるけど。」
「それでいいと思うな」
「撮影入ったら俺時間そんなとれないんだから、電話すぐ取れよ。あとテキパキ喋れよな」
「う、うん」
「とりあえず本一通り読んで、カズヒコが強がりなのかふっきれてるのかわかんないとこあったから、後で聞く。脚本で変わってくるかも知れないけどな」
「うん・・・あの」
「何」
「俺、さくら君が演じてくれるの嬉しいよ」
「ん・・・やるからには100万人泣かせる大ヒットにしてやる。」

(だから、俺が聞いたらちゃんと答えろよ。北海道に置いてきた自分の事も、口では絶対話さないくせに1冊本にするような、もう居ない、兄貴のことも。)