あなたさえ居なければ

※ヤンデレ注意

恋に狂うのは、ひどく罪深いことだ。
あの人を見ているとそれがよくわかる。
あの人の相談を受け始めた当初、薄い恥じらいの表情が空気を幸せの色に染め、僕はその時間が大好きだった。
あの人が彼を手に入れてからも僕への相談は続いていたが、しばらくはただの惚気で、半分呆れながらも微笑ましく話を聞いていた。
いつからおかしくなったのだろう。
もしかして、あの人は、はじめからーー彼に恋をはじめた時からーーおかしかったのかもしれないと、今になって考えてみる。
僕には見えていなかっただけで。
あの人は彼のいろいろなものを奪っていった。
友人、家族、生活、時間。彼を監禁し始めたようだった。
僕への相談の時間が、赤黒い、苦しい色に染まるようになった。
僕はあの人が罪を犯しているのを知りながら、止めることが出来なかった。
あの人は苦しみながら、狂いながらも、幸せそうだったから。
事情が変わったのは、あの人が命を奪い始めたとき。
彼の可愛がっていたマンチカンを殺したのだという。
彼の膝の上に寝そべり、自分を見下す眼差しが憎かったのだと。
このままだと、あの人はいずれ人をも殺めてしまうかも知れない。
背筋が凍った。
僕は決意し、あの人が帰らない時間を見計らい、彼の許へと向かった。
彼は、思いのほか自由にされていた。
予想を裏切り、手枷や足枷はつけられていなかった。
しかし、理由はすぐに明らかになった。
彼は茫然自失の状態で座り込んでおり、目から光は失われていた。
憐れな彼の真ん中に僕は刃を突き入れ、僕ともども彼が赤く赤く染まるのを見ていた。

僕は我に返ると、判断を誤ったことに気がついた。
だって、あの人は僕を殺すだろう。
あの人を人殺しにしたくなかったから、彼さえいなくなればと思ったのだけれど……。
彼を殺した僕を、あの人が殺すのなら、結局、あの人は。


恋に狂うのは、ひどく罪深いことだ。
あの人を見ているとそれがよくわかる。
恋に狂ったあの人も、僕も、掌が、血に染まる。


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最終更新:2012年05月01日 17:19