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妹が、お前のこと好きだって

「お前彼女いんのか?」
「はっ?」
大学に入って、お世話になっていた叔母の家を出て一人暮らしを始めた。
いつまでも迷惑をかけられないと、両親の遺してくれた俺のための預金は学費を払うのには十分足りたし、バイトで生活費を稼げばなんとかやっていけるもんだった。
 理由はそれだけじゃないけど。
「なんだよ、急に来ていきなり……」
「いやーさすがに大学入ったらなあ。自ずと出来るもんじゃないのか?」
「圭さん、それ俺の友だちの前で言ったらぶっ飛ばされる」
「おっ? じゃあお前はいるのか?」
圭さんの頭の後ろに、わくわくという文字が浮かんで見える。そう輝かしい目で見つめられたってなあ。本当に、こっちはひとつもおもしくない。
「残念ながらいないよ。作る気もない」
「えー、マジかよ。若いのに有り余る性欲どこで発散すんのお前!」
「うるさいな! そんなこと言うためにわざわざ来たんですか」
圭さんが、んなわけないだろー、とニコニコと笑う。見慣れた笑顔。
見慣れすぎてちょっと鬱陶しいくらいだ。そう思うようになるくらい、このひとはいつだって笑っている。
「梨子がさ、お前出ていってからたまに寂しそうにしてんの」
「梨子? なんで?」
「お前がいないからだろ、単純に」
さっき俺が入れたコーヒーを、ティースプーンでくるくると混ぜながら圭さんは言った。カチャカチャと、無機質な音が未だ慣れないワンルームに響く。
「……それで」
「今度の休みに梨子に会ってやってよ」
 時々、というかここのところはほんど、圭さんはあのときのことを忘れてしまったのだろうか、と途方にくれる。
それにしたって、あのとき一瞬見せた驚きの表情は相当なものだと窺えたし、確かにあれから俺は何もアクションを起こさなかったけれど。
「圭さん」
「んー……、っうお」
あれは確か、俺が中学のときだった。あの頃に比べれば、俺は随分身長も伸びたし精神的にも大人になった。
けれど、あのとき一時の気の迷いだ、と一蹴された言葉は、未だにあのときと同じままの気持ちで口にすることしか出来ない。
「圭さん、好きだ」
「……お前なあ、だからって急に押し倒す奴がいるかよ」
ほらまた。そうやってしょうがないな、みたいな顔で笑う。眉を曲げて、頬を緩ませて、ありったけの情愛の籠った目で、俺を見つめる。
違うんだ、俺はそんな顔を向けてもらえるような、そんな綺麗な感情であんたを見てるんじゃない。
組敷いて、乱暴に足を開かせて、ぐちゃぐちゃに犯したい。泣かせてやりたい。
「……梨子には会わない。変に期待させたって、あいつのためにならない」
俺は、あんたみたいに生殺しみたいに、相手の気持ちを引きずらせたりなんてしない。そうしたら、何年だってその想いを引きずることになる。
「……何か言ってよ」
「ん、いや、お前も梨子も大事だからな、どうするのが一番なのかねって思って」
頭を撫でられて、その手のひらの大きさと暖かさに、大人の狡さを感じた。
俺は自分のことしか考えられないし、あんたしか欲しくない。