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ビターエンド

理想というのはいつだって、その通りにならないから理想なのだと、いつぞや博識ぶった外国人が言ってたかもしれない。

「俺はね、恋だの愛だの言ってる糞ガキとは関わらないことにしてるんだよ自らの平穏のために。わかったら帰ってオナニーでもしてろ」
という言葉を普段のようにはっきりとした発声で爽やかに柔らかに僕が憧れた声そのままで言い放たれたとき、僕の心は折れた。むしろ砕けた。
「小津先生…?」
あなたは小津先生ですか、そんな気持ちを込めてやっと呟いた。
先生は白衣のポケットから見たこともないタバコを取り出すと、真っ黒で細いそれに慣れた手つきで火をつけた。
風下にいる僕に、遠慮なく纏わりついてくる煙。
いつもの柔軟材とは違う、苦々しい独特の香りに涙が出た。
「煙が染みたか?それとも一丁前に本気だったか?」
嘲るようにそう言い放たれた、またしても憧れの声で。
恥ずかしさと憤りととにかく逃げ出したい気持ちでじっと俯いていると、風にはためく白衣の裾が視界に入った。
先生、いつも綺麗な白衣を着ていた先生、あなたの笑顔と白衣の眩しささえ、重ね合わせてときめいていたのに。
違うんだ、先生は、このタバコみたいに真っ黒なんだ。
僕にはそれが良いことなのか悪いことなのかさえ判別できず、ただ苦い香りに痺れる鼻を外してブン投げかった。
「タバコは嫌いか」
「…吸ったことありません、ただそのタバコは嫌いです、鼻が痛いから」
「そうか、じゃあやるよ」
先生はそう言うと、僕の学生服のポケットへ残りのタバコを箱ごと押し込んだ。
「いりませんよ、先生、先生ってば」
「俺の部屋その匂いなんだ」
思わぬ言葉に顔を上げたが、左手にタバコを持ったままで口元が隠れていた。
「先生、どういう意味ですか。俺の反応見てからかうとかそういう」
「ばーか。いいから早く慣れろよ。キスもその匂いだから」
苦い煙を吐きながらいたずらっぽく笑った先生に、僕が憧れた面影は微塵もなかった。
だけどもう、僕は肺いっぱいその煙を吸い込みたいとかそんなことばかり。