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下戸×酒乱

 お互いに酔った勢いで言うつもりだった。ついでにあわよくばと淡い期待もあった。
 甘かった。奴が飲まない男だというのを失念していた。
「つきあい悪いって言われね? いっつもいっつもウーロン茶じゃさー」
 悪い絡み方だ、と自覚しつつ、わざと嫌がられそうなことを言ってしまう。
 ついでに大野の肩を叩いて、スキンシップでその気になってくれないものかと馬鹿なことまで考えた。
 当然、大野は嫌な顔で、
「お前ぐらいだ、しつこく飲まそうとするのなんか」
 と携帯の時計を見た。帰りたいとでもいうのか? 冗談じゃない、まったく進展してないうちに。
「んじゃ食えよ、ほら、焼き鳥、、まだ食ってないだろ」
「悪いけどとり皮とレバー苦手。お前食え」
「好き嫌いするな、酒は飲まない、レバー食べられない、子供かっての」
 じろりと横目で睨まれた。そりゃそうだ、これだけつっかかってればあきれられて当然だ。
 ……なんか、ダメだ。作戦失敗。
 このままじゃただの酒癖の悪い男で終わる可能性が高い。
 俺、必死こいてるだけなんだけどな。
 いったいどうしたらこの男のガードが崩せるんだろう。
 俺はあと何杯のめば、こいつに好きという勇気が出せるのか。

「お前なぁ……飲み過ぎ。無理するな」
 酎ハイが残っていたのを飲み干そうとして、取り上げられた。
「お、お……もっらいないよ」
「何言ってるかわからん、お前、もうやめとけ」
 そろそろ限界、と自分でも思うし、酒も全然美味くなくて、惰性で飲んでる。
 でも、飲まずにはいられない。だって、どうしても言えない。
 今夜こそ、とあんなに絶対に決意したのに、やっぱり言えない。
 自分が歯がゆくて情けなくて、とうに自棄酒になってるので飲むしかない。
「もーいーよ、おま……先に帰れよ。おれ、もうひょっと飲んでっから」
「店もいい迷惑だ、帰るならつれて帰るから」
 ほら立て、と腕をとられ、その手の力に泣きたくなった。
 なんでそんな優しい手なんだ。
 そうじゃない、俺がほしいのはそういうんじゃない。
「いーってら、置いてってよ……お前らんかに、飲みらい気持っが……わかってたまっか」
「わからんこともない」
「うんにゃ、わからん! おまー……飲めないじゃん」
「お前の気持ちは、何となくわからんこともない」
 酒漬けでふやけた頭に何かがひっかかった。大野、今、変じゃなかったか?
 大野の顔を見ようとした。見たいけど、焦点が合わなくて部屋がぐるぐるする。
 体が揺れて、テーブルに手をついた。
 水、水。何か飲んで、頭をはっきりさせねば。と、ジョッキが手に当たったので持ち上げようとしたら。
「馬鹿、やめろって」
 大野が先にかっさらって、そのままぐいっと飲んでしまった。大きな口にほんのひとくちでジョッキが空になる。
「大野……お前、飲めんじゃん……?」
 確認したいのはそこじゃない。けど、大野が酒を飲んだところは……初めて見た。
「飲めないよ」
 これ以上なく苦い顔で大野は言った。
 え? と俺があっけにとられていたら、「ほら立って」ともう一度促され、俺はすっかり毒気を抜かれて言うなりに立ち上がった。

「……やめときゃよかった」
 店を出たところでみるみる赤くなった大野は、俺を支えながら自分もふらついた。
「にゃ、にゃ、にゃんか……俺、ごめんな」
「いいんだ、好きで飲んだんだ。それより早く帰るぞ、明日は二日酔いだ、お前も俺も」
 俺を支えて歩き出した方向は、俺のうちの方、大野とは真逆の。
「送ってやるけど……先に謝っておく。俺の方こそ、ひょっとしたら、ごめんな」
「にゃに?」
「ちょっと、待ちすぎたから」
 ──大野の言葉の謎が解けたのは、俺の部屋についたあとだった。