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行き止まりでの出会い

足が疲れて絡まりそうになる。走る。逃げる。走る。
路地裏に逃げ込んで、俺は先に進めなくなった。
追っ手の声がして、俺は今来た方向を振り返った。すると背中からドアの開く音がした。
「あ……」
ドアから出てきたのはゴミ袋を持った若いバーテンダーだった。
とまどっている男を問答無用で押し込み、俺は扉を閉め鍵をかける。
「え?ちょっと……」
「助かった。ありがとよ」
「てめえ!ふざけんじゃねえぞ!逃げ切れると思ってんのか!」
ドアを叩く音と蹴る音、罵詈雑言が聞こえたが無視する。
「出口はどっちだ?」
「……勝手に裏口から店に入って、注文もせずに出口をきくなんて横柄なお客様ですね」
「ああ、すまん。今はこれしか手持ちがないんで勘弁してくれ」
俺は財布から札束を取り出して男の胸元に押し付けた。だか男は受け取らない。
「もらう理由がありません」
「礼だ」
「もらえません」
「うるせえな。金はあって困るもんじゃねえだろ」
「私は今困ってます」
「俺は急いでるんだよ。その金で一番高いボトルでもいれとけ」
「それでも余ります」
「十本でも二十本でも入れられるだけ入れりゃいいだろ。じゃあな」
「あっ、待って!」
後ろで男がゴチャゴチャ言っていたがそれも無視した。
気がついたらパトカーの音がして、俺を追いかけてくる奴らはいなくなっていた。

数日後、俺は様子をみるためにその店へ軽く変装をして行った。
男は俺を見るとすぐに苦笑いをして
「ああ、この間の……」と言った。
「そんなにすぐわかるか?」
「名前も言わず何本もボトルを入れられるお客様は少ないので」
「そりゃそうだわな」
「ポチ様で入れておきました」
「ポチ……」
「もういらっしゃらないと思っておりましたので嬉しいですよ、ポチ様」
どうみても迷惑そうに愛想笑いを浮かべて男は言う。
「あの後、俺のオトモダチが来なかったか?」
「来てましたよ」
男はサラリと言うが、ただ来ただけではないだろう。
だが男は話題に出すのを拒否しているように思えた。
「そうか、すまなかったな」
「いえ、別に」
目の前にグラスが差し出される。
「どうぞ、ポチ様」
どうもポチ様で押し切られるらしい。
あの日、警察を呼んだのはお前だろ?
そう聞きたい気持ちもあったがやめた。
男はあの日の事を聞かず、オトモダチの事も聞かなかった。
お酒はどういうものがお好きなんですか?
何か一緒につまんだ方がいいですよ……
そんな風になんとなく続く緩やかな会話。
気がつけば予定の時間よりも長く店にいた。

「このペースだと何年かかるかわかりませんよ」
「何が?」
「うちに入れたボトルを空けるのが」
「ああ……」
もうこの店に来るつもりはないと薄々気がついているだろうに、男は俺にそんな事を言う。
「お待ちしています」
男はにっこりと笑って見送ってくれた。
最後にポチ様とつけるのを忘れずに。