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無口×無口

会話が無い。
男二人で入ったファミレスで、席に着いてから料理を注文し、届いて食べ始めた今の今まで交わした言葉は
「この席にすっか」「ん」
「ほい、メニュー」「サンキュ」
「決まったか?呼ぶぞ」「よろしく」
「チキングリルのセット、ご飯大盛りで」「あ、俺も同じの。ご飯は普通で」
「じゃ、いただきます」「いただきます」
これだけだ。
人見知りで口数が少ない俺ですら、もうちょっと会話の一つがあってもいいんじゃないかと思ったが、かといって気のきいた話題は全く思い浮かばず、あれこれ考えながら結局一言も話さないままご飯(俺は普通盛り)を頬張るしかなかった。
そもそも、なんでこいつと二人でファミレスなんかに入ってしまったのか。


俺はクラスで開いた『クリスマス・カラオケパーティー』に参加し席の端っこで縮こまっていた。
好きで参加したわけじゃない。
「この日用事ある?ないよね?じゃあ来れるよね?」
「いや、あ、うん…」
と曖昧だがイエスの返事をしてしまったのだ。
直後、適当な用事をでっちあげて断ればいいと思い立ったが、
「吉野君は出席~!」と名簿にマルをつけた女子達に話しかける勇気は、人見知りなうえ女に耐性のない俺には到底無理な話だった。

俺にも気兼ねなく話せる友達はいるがパーティーには全員不参加だ。
変に話を振られたりマイクを渡されても対応に困る、このまま席の端で空気キャラを保ち続けて時が過ぎるのを待とう、そう思っていた。
が、俺にとっては最悪のイベント『王様ゲーム』が始まろうとしていた。
これはまずい。昔からクジ運最悪の俺だ。絶対に何やら当てられて、場をしらけさせるに決まっている。
「か、帰りてぇ…」
そう無意識に零れてしまった独り言、独り言のはずなのに返事が聞こえた。
「じゃあ、帰るか」
「えっ?うわっ」
先に立ちあがったこいつに腕を引っ張られて、俺も拍子で席を立ってしまった。
「こいつ、気分悪くしたみてーだから連れて帰るわ」
「えーーっ高坂君!帰っちゃうの!?」
「高坂ぁー!てめー逃げんのかよっ!」
退場を惜しむ女子達の黄色い声、男子達の挑発にも全く動じず、高坂は二人分の金を机に置き退席した。
彼に腕を引っ張られたままの俺もそのまま一緒にボックスを後にする形になった。
「ごめん、助かった。金払うから…」
「いらん。俺も帰りたかったんだ。お前をダシに使った詫びだ。」
「いや、でも、」
助けられたのは俺なんだからお詫びなんていらない。そう言おうと思った矢先、
空腹を訴えて俺の腹の虫が鳴いた。
「……。」
「……。」
「どっか、食いにいくか」
「うん…」

――で、今に至るというわけだ。

会話が無くて気まずいと思っているのは俺だけなようで、向かいに座っている高坂はチキンをがつがつ食べていた。
早々に食べ終わり、メニューを広げて二品目に悩んでいた。
話しかけるなら今じゃないか、そう思って口を開けても何も言葉は出なくて、結局俺もチキンにがっつくだけになる。
……情けない。
腹が鳴ってファミレスに来たのは恥ずかしかったが高坂と友達になれるチャンスだと思った。
高坂は無口だけど良いやつだ。俺なんかほっとけばいいのに、気にかけてくれた。
他人に話しかけられても「え」とか「いや」とかしか言えない俺と違って、少ない口数でもコミュニケーションが上手だった。
絵に描いたようなクールキャラで、男にも女にも人気があって彼の周りにはいつも人がいた。
始業式からなんとなく目で追っていて、憧れのような存在になっていた。
それに比べて俺は、せっかく一緒にいるのに高坂にお礼すら言えないでいる。

「…悪いな」
突然、メニューを閉じて高坂が話しかけてきた。
「え、何が」
「食ってばっかで。なんか、緊張すると食いたくなるんだ」
「いや、俺も食ってばっか、だし」
高坂の言葉の意味が分からない。緊張、してるのか?どうして?

「吉野さ、田村いじってた女子怒鳴った時あったろ。」
「…そんなことあったな」
田村ってのは俺の数少ない友達の一人だ。
ちょっと太っててオタク入ってて、でも優しくていい奴なんだけど、クラスでは嫌われてて。
犯罪起こした人がオタクだったみたいな事件が報道された次の日、クラスで女子が下らないこと言いまくって田村を馬鹿にして笑ってたから。
田村は何もしてないのに、だから俺がキレて、その場は静まった。そんな事件が春にあった。
「すげーなって思ったんだよ。お前やたら人見知りなのに、クラスのど真ん中で怒鳴りまくって」
「当然だろ、あんなん…」
「当然って思えるのもすごい。そっからお前のこと気になって、」
「そ、そなんだ…」

「気付けば好きになってた。」

「……いや、え……?ええーっ!?」
冗談なのか、はたまたlikeという意味でか。確かめるために顔を見たら
クールで仏頂面の高坂が耳まで顔赤くして、照れくさそうに目を反らしていた。
ちょっと可愛いなと思ってしまった。
「あ、ありがとう…」
「…おう」

そこからはまたお互い無言になって、窓の外を見ると雪が降っていた。
行きたくないカラオケに行って、腹へって、男に告白された、そんなホワイトクリスマス。


それもまあ、悪くないんじゃないかな、そう思った。