ふたりだけにしか分からない
三人してテレピン油の匂いを振りまきながら帰る道すがらのこと。
道端の電柱に何気なく、一枚のチラシが貼ってあった。
俺にとっては本当にそれだけのことで、けれど先輩方にはそれは、何か心に触れる
ものであった、らしい。
「なぁヨシ、これって……なんつーか、アレだよな」
「んー? ……ああ、うんうん。でもお前にとって、だけどな。俺はそうでもないね」
「か? え、てっきりむしろお前にとってのアレだと思ったんだが」
「でもない、ないない。お前向きだよ。俺向きじゃない」
なおも盛り上がるふたりは、完全に歩みを止め、剥がれかけたチラシとツーカーな
会話に夢中。俺ときたら全然それについていけなくて、完全に蚊帳の外だ。何なんだ
その『アレ』とやらは。
どうにもついていけなくて、仕方が無いから俺はその場を去った。ふたりは気付く
ことなく、俺の知らない次元での話を続けている。どっちかが、というかヨシ先輩くらい
は振り向いてくれるかと思ったが、全然そんなことはなかった。
どうにもこうにも、胸がすかすかした。
それがチラシの色彩バランスの話だと聞かされたのは、三ヶ月後。
俺がヨシ先輩に対する恋心に気付く、3日前の話だ。
最終更新:2012年02月09日 20:32