※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

探偵と○○※○○は助手でも刑事でも犯人でも誰でも


「じゃあ行くわ。あなたも身体に気をつけてね。無理きかない歳なんだから。さよなら」
去って行く足音に躊躇は感じられない。
ドアの閉まる無機質な音がやけに大きく耳に響いた。

仕事が忙しく帰宅はほとんど毎日0時を回っていた。
外出どころか夕飯を一緒に食ったのもいつのことだったか。
女の寂しさなど分かってやろうともしなかった俺がいけなかったんだろう。
結婚した当初の燃えるような愛情などとうになくなっていた。
かといって、嫌いになったわけでもない。結婚なんてそんなもんだと思っていた。
しかし彼女の荷物のなくなった部屋はやけに広く感じられ、まるで他人の家のようだった。
俺はひとり酒をあおった。

うとうとしかけた頭が、なにかがぶつかるガチャガチャという音で引き戻される。
「まったくこれだから女房に逃げられた中年男ってのは情けないな」
転がっている酒の空きビンを拾いながら若い男が言う。
「おい、いつのまに入りやがった。不法侵入で訴えてやるぞ」
「あ?ちゃんとベルも鳴らしたよ?返事ないからちょっとドアを押してみたら
 俺の来るのを待ち侘びていたかのごとく開いたのさ」
「誰が待っていたって?アホか。だいたい逃げられたんじゃねぇ。円満離婚だ」
「円満ねぇ。浮気現場の写真見せられ狼狽してたのは、何処のどいつだっけなあ」
「五月蝿い!そりゃ15年も一緒だったんだ。愛情がなくなったって親愛の情ってのがあるだろ。
 ちょっとびっくりしただけだ」
「ふぅん、で今日はやけ酒か。
 寂しくて泣きそうだからお酒飲みました、って空きビンたちが雄弁に語ってる~」
「喉乾いたから飲んだだけだ。ほっとけ」
「それがほっとけないんだなぁ。
 クライアントの心のケアもサービスするのがウチのモットーなんでね」
ああ言えばこう言う。
調査終わってからも何かと用事作って出入りする。
まったくとんだ探偵屋に依頼しちまったもんだ。

「暑苦しいから隣り座るな」
残っていたビールを流し込むと、酔いがぶり返し目が回る。
「電車の中でさ、こうして肩にもたれてくる酔っ払いのおっさんっているよね。
 うざくてさぁ、つい手で押しやっちゃうよ」
酒に呑まれた頭の何処かで、あぁじゃあ俺も押しやられるんだなと考えながら
「こんなとこで油売ってねえで仕事してこい。ケアサービスとやらあんだろ」
と言ったのを最後に思考が混沌とする。
「あれ寝ちゃったの?ケアサービスはあんたのためだけのオプションなんだけどなぁ」