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嫌われ者の言い分

彼は一瞬目を丸くして、それからけらけらと笑い始めた。
「俺は別にそんなつもりないですって」
「嘘だ」
「ホントですよ。奪うなんてこと自体、ちっとも思いつかなかった。
 そっか、そういうのもアリか。略奪愛かー…あ、でも愛がないや」
なおも可笑しそうに笑う彼を、俺は睨みつける。
「遊びのつもりなのか」
「いーえ、本気は本気ですよ。佐伯さんと会うようになってから、他の人とはヤってない」
その言葉に眩暈がする。
「いつから」
「んー…元々、二人の関係を知ったのは二ヶ月ちょい前かな。
 俺、裏の倉庫で二人が濃いーキスしてるの見たんですよね」
「……覗いてたのか」
「偶然。奥の棚で探し物……あ、そーいえばあれ頼んだの和泉さんですよ」
「……」
「で、ちょっと興味がわいて近づいてみたっつーか」
「…それで、あいつは受け入れた」
「や、まさか。最初は全然相手にされなかったですよ。冗談だと思われてたみたいで。
 言い寄られたからってすぐフラフラするようなタイプでもないじゃないですか、あの人」
その口が、あいつを語ることにどうしようもない怒りを覚える。
しかし、彼は怯んだ様子も無く喋り続ける。
「で、いつだったかなー…これまた裏の倉庫で、今度は喧嘩してましたよね」
「それも覗いてたのか」
「超生々しい痴話喧嘩。あの後、仕事場じゃ二人とも普通に喋ってたけど。
 そこへメーカーとのトラブルが起きちゃって、和泉さんはそのまま出張へ」
「……そこに付け込んだ」
「うーん、そういうことになっちゃうか。でも佐伯さん、すげー落ち込んでたんですよ?
 その日一緒に飲みに行って、べろべろになったところをもう一押ししたら、落ちました」

あの喧嘩は、今思えば本当に些細なことが原因だった。
しかしあのときの俺は頭に血が上っていて、あいつと顔を合わせるのが嫌で仕方なく、
だから急な出張にほっとしていた。
結局、トラブルを片付けて後始末をして、その間に頭も冷えて落ち着いて、
次にプライベートで会えたのはその二週間後。

――二週間。

「大丈夫ですよ。本当の本当に、和泉さんから佐伯さんを奪おうとか思ってないですから」
「……だったら別れてくれ」
「だからぁ、佐伯さんにそう言われたら大人しく諦めますってば」
「あいつはまだ、俺が気づいたことには気づいてない」
「だったら胸倉掴んで『俺とあいつのどっちを選ぶんだ!』って迫ればいいんですよ。
 百パーセント、あの人は和泉さんを選ぶから」
そう言って彼はまた笑う。
「一応、俺も本気なんで」

俺はその笑顔が憎らしくて仕方なかった。