幼稚園の頃からの幼なじみ

「雨降るかもなぁ」
隣から聞こえる、のんびりと間延びした呟きにつられて空を仰ぐ。
風は強いが雲はなく、円には少し足りない月がくっきりと見えていた。
その下を、友人が歩いている。やつは広い歩幅で、ゆったりと歩く。

「なぁ、お前さ、ここんとこヘンだぞ。ボーッとして。何かあんのか」
「……何でもない。忙しかったから、少し疲れてるんだろ」
心配顔の友人を曖昧にはぐらかして、ため息を押し殺す。
嘘をついているのが分かるのだろう。やつは視線を外して眉を寄せ、黙り込んだ。
自分の事で傷付いた顔をされるのは辛かったが、かといってどうする事も出来ない。
良くも悪くも、情の深い男だ。そんなところに惚れた。
原因はお前だと打ち明けてやったら、一体どんな顔をするだろうか。
見てみたいと思った後で、絶対に見たくないと思い直した。
俺達は幼稚園から続いた腐れ縁で、それが全てだ。やつにとっては。

失う覚悟など出来るはずもなかった。多分、長いこと一緒に居過ぎたのだ。
あのこが好きだ何だと言い合っていたガキの頃のまま、
いまだに俺のことを何でも知っていると思っているに違いない。
大きな秘密を抱えた今、それが嬉しいようでもあり、悲しくもあった。
「あ、今空光ったぞ」
はしゃいだようにやつが言う。いい歳をして、相変わらず雨が好きなのだ。
白い襟がバタバタと風に煽られるのを眺めながら、少しだけ離れて歩く。
嵐になればいいと思いながら。


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最終更新:2012年02月09日 19:37