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冬のバーゲン

新年の挨拶でもしてやるかと訪れた古道具屋の店先には、
「冬のバーゲン開催中」と毛筆で書かれた半紙が貼られていた。

店に入ると、店主である男が俺に気づいて片手をあげた。
「おう、あけましておめでとう」
部屋着にどてらを羽織って椅子に座り、ストーブにあたっている。店の中に俺以外の客はいない。

「外のあれは何だ?書初めか?」と聞いたところ、
「見たまま。バーゲンを開催中」と、なぜか自慢げに言われてしまった。
なんでも、有名百貨店の初売りバーゲンの様子をテレビで見たそうだ。それで「ぴーんときた」らしい。

「すげーんだよ。福袋買うための行列ができてたりしてさ。お客さんが大勢押し寄せてんの」
「それで自分の店でもバーゲンやろうって?」
「そうそう。気合い入れて福袋も作った」

見ると、店の隅に風呂敷包みがいくつか並べてある。
そのうちの一つを解いてみたところ、古道具というかガラクタが満載だった。
俺はその中のいくつかに見覚えがある。

「……お前これ、処分するんじゃなかったのか」
去年の暮れ、あまりに物が溢れて店内が雑然とし過ぎていたため、俺が音頭をとって大掃除を決行した。
その際『処分箱』に放り込んだはずの、商品価値なしと判断されたもの。

「いざ捨てるとなると、可哀想でさあ」
物を大切にするのは良いことだと思うが、この男の場合は度が過ぎる。
そんなことを言いながら持ち込まれる古道具を見境なく買い取るから、店の『商品』は増える一方だ。
結果、店内は更に混沌とし、一部の客を除いて更に客足が遠のいていく。悪循環だ。

「だからこうしてバーゲンやってるんだって」
お気楽そうな笑みを浮かべる。
「捨てる前に売れるのが一番良いじゃん。俺は儲かるし、道具は使ってもらえるし」

「その肝心のバーゲンの成果はどうなんだ。客じゃなくて閑古鳥が押し寄せてるじゃないか」
「そんなことないぞ。昨日は上川さんに、あそこにあった硯箱をお買い上げ頂きました」
「あの人は常連だろ」
「市原さんが胡桃釦をがっぽり買ってくれたりとか」
「常連だろ」
「それから秀峰堂の旦那さんとか、ミラクルショップの秋さんとか」
「同業者だろ」
「あと鈴木のばあちゃんも来てくれた。あ、そうそう。ばあちゃんに餅貰ったんだよ、餅」

俺はため息をついて、福袋ならぬ福風呂敷包みを元に戻した。
おそらく『冬のバーゲン』期間が終わっても、この中身が処分されることはない。
今年もこの男は、ガラクタが大半を占めるこの店で、この調子でのほほんと笑っているのだろう。

そもそも、本気で客を呼び込みたい店主は、営業時間中に餅を焼くための金網を店内から探したりはしない。

「なあ、黒砂糖と黄粉と砂糖醤油、お前はどれにする?」