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相撲取り

(近親注意)

「うおあわわ、なに、何だよ、いきなり入って来んなよ!」
突然の闖入者にもお構いなしに、ビデオテープは無情に流れ続けた。
テレビ画面では裸の女優が背面から羽交い絞めにされ、白い乳房が
男の太い指を食い込ませながら揉みしだかれている様子が大映しになっている。
慌てて毛布を引き寄せて股間を覆う俺を一瞥すると、兄貴はつかつかやって来て
リモコンを取り上げ、勝手に盛り上がっていくピンクのビデオを一旦停止させた。
残暑見舞いの葉書が来てたぞ、と平然と白い紙切れをひらひらさせるので、
きまりの悪さを誤魔化すように、怒りをぶつけた。
「兄弟だからって、ノックぐらいしろよ!」
「お前だって冷蔵庫の扉を開けるのにいちいちノックはせんだろうが」
野菜と弟を一緒にすんな、ばーろー。言い返したかったが、圧倒的にこちらの分が悪い。
片眉すら動かさずに俺を見下ろす顔は静物を描いた絵のようで、体温を感じさせず、
いつも言葉を奪ってしまう。顔も、性格も、頭の良し悪しも靴のサイズも何から何まで
違いすぎていて、たった一時間の生まれの差とは到底信じ難かった。
「空気が篭もってる。空調をつけないなら、窓くらい開けろよ」
女の胸の果実にも、甘い嬌声にも、兄貴は反応を示す人間ではない。それが俺たちの
決定的な、もう一つの差だ。兄貴は、女の出るAVを見ない。だから分からないという
訳ではないだろうが、窓をおっぴろげにしてビデオ鑑賞が出来るか、ばーろー。
「な、なあ、兄貴はさ、こんなの、ほんとに興味ねえの」
動揺が声に出ている。我ながら女衒のような言い様だ、情けない。ふんと軽く鼻を
鳴らされた。「ないな」男が好きなんだと初めて告白した時と同じ、抑揚の無い声だ。
画面を光らせながら、つんとした乳首が紅玉の瞳のようにこちらを向いて、先程から
じっと俺たちの様子を見守っている。
「でもさ、こんなに豪快に揉まれてるの見ると、気持ちよさそうだなって思わねえか。
気持ちよくしてやりたいって、気分にさあ」
「思わんね。不向きだ。男の胸は揉むよりも撫でるものだ。手の平で筋を押し上げ
るように、爪を立てず、優しく触る。舐めて、吸って、舌先を遊ばせるんだ」
淡々と語る。胸中は読めない。読めた試しがない。俺のジュニアの方がよほど素直だ。
男を喜ばすテクに聞き入って、首を伸ばし始めている。
「じゃあ、あの乳の持ち主が、おすもうさんだったら?」俺はテレビ画面を指差した。
また鼻先で笑われるかと思ったら、まん丸く目を見開き、兄貴は画面を注視した。
「おすもうさんなら、いいかもな」ややして視線を反らしたが、その頬がうっすら紅潮し、
瞳が僅かに潤んでいたのは見逃さなかった。
「や、おすもうさんの乳はあんなに張りは無い。外に晒されて肌荒れしているだろうし」
首を振ったが、ああ、彼の頭の中ではどんな想像が展開していたのだろう。
乳があってもおすもうさんならいいのかよ。ときめくのかよ。
「じゃ、じゃあ、あの乳についた顔が、お、お、俺、だったりしたら?」
恐る恐るとんでもない伺いを立てると、冷静沈着な兄貴は、竹の弾けるが如く笑い出した。
腹を抱えて膝から崩れ落ち、板張りの床に這い蹲った。今晩夢に出たらどうしてくれる、と
拳で床をどんどんと叩き、ヒーヒーと痙攣しながら四つん這いで部屋を出て行った。一旦停止の
有効時間が過ぎたのか、ビデオの時が動き出し、女は再び乳房を揺らし始める。夏空の
イラストの残暑見舞い葉書と俺だけが、ポツリと取り残された。その晩悪夢を見たのは
俺の方だった。何故か女のようにふくらんでいる胸を両腕で抱きしめて、深い深い谷間を
作っては瞳を艶めかしている兄貴の尻を追いかけたら、ぷるりぷるりと乳を揺らすおすもうさんの
人垣にあっという間に阻まれてしまい、腹だか乳だか分からない脂肪に挟まれ、俺は泣いた。