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ヤンキー君とメガネ君

屋上に来たのは初めてだった。
「げっ風紀??、何で」
多分彼、沢良(さわら)が壁際の死角にでも座り込んでいて、そういう事をしてるだろうと
今まで殆ど接触も無かった僕にすら想像出来る形で、やっぱり彼はそれをしていた。
「未成年の煙草は厳禁+校則違反レベル10因って」
「消す消す消す!ってか、何で品行方正なお前がこんな所いる訳?」
「今のは見なかった事にする・・・今そんな気分じゃないから」
溜息を吐きながら当初の目的だった彼に近づいた。
彼女のあんな告白を聞きさえしなければ、僕はこうして正反対のタイプの彼に会いに来る事なんて無かっただろう。
初めての屋上で感じる風はかなり冷たく、頭を冷やすには丁度良い場所だった。
「ふうん、じゃあまあ美味い空気でも吸っていけよ」
どこが美味い空気なんだか。沢良の周りは咽返るような煙草の匂いで充満している。
少し息苦しく感じ、手すりに凭れる形で壁際の沢良と少し距離を置いた。
彼は黙ったままで、相変わらず風紀委員の僕の前で煙草を吸い続けている。
沈黙に促される様に僕は、整理出来ないままの気持ちを呟き始めた。
「同性を好きになる気持ちって、分からないんだ全く」
風と一緒に煙が流れていく。一瞬だけ視線をこちらによこし彼はふう、と煙を吐き出した。
「両想いになれるなんて思ってない、クラスには男らしいヤツも多いし、僕には高嶺の花だって
事は分かってた。でも」
「ま、さ、か、女に取られるとは思ってなかったって訳だ」
新しい煙草に火を点けながら沢良が急に口を開いた。
「え?・・・それどうして」
「さっき言ってたじゃん、同性を好きになる云々。因みに相手はミサキでお前の好きなのが都築だっけか」
「ちょ!何でそこまでっ」
「マジ?当たり?さっすが俺!」
「・・・流石、ホモ」
僕が呟いた瞬間沢良が地面で乱暴に煙草の火を消し、立ち上がった。
「あんな、ホモじゃなくてもそれくらい分かる。俺ナリはこんなだけどその分、ガッコの勉強だけして
んな分厚い眼鏡かけてるお前より、酸いもしょっぱいも経験してんの!・・・後俺ホモじゃなくてバイってか両刀」
ヤニ臭い息がかかる程顔を近づける沢良に、僕は仰け反るような格好になる。
「指指すなよ、後目が悪いのは遺伝、それから・・・え?両刀?!」
「そ、男女問わず気に入ったらカモーン。人呼んで恋愛の達人様だ、何ならお前の」
「茶化すなよ!」
思わず感情を吐露してしまった自分がとんでもなくみっともない。
いくらコイツが自分で周囲にもカミングアウトしてる奴で、気の迷いで会いに来てはみたものの、
やはり僕との共通点なんか無い。立ち去ろうと踵を返し始めた時、
「で、お前は、何に悩んでるんだ?都築に告る事か?それとも、自分が好きな相手が同性愛者(レズ)
だったと言うショッキングな事実か?」
いつの間にか真横に来ていた沢良が、急に声のトーンを低くして僕に視線を合わせそう言った。
「え?・・・そ、それは」
「前者なら俺は迷わず今からお前を都築の元に連れて行く、んで強制的に告らせる」
「こ、後者なら・・・」
相手の剣幕に負けじと、自分を落ち着かせる為に僕は眼鏡のフレームを押し上げた。
その瞬間分厚いレンズのすぐ前に映ったのは初めて見るクラスメイトの姿。
「好きになっちまったんなら仕方ねえじゃん。同性であろうと何であろうと」
僕を真っ直ぐ見てそう言う沢良の表情は少し泣きそうで、それを誤魔化すかのような
悪戯っぽい作り笑いは、反対に僕の疾しい気持ちごと胸をぎゅっと押え付けた。
今の一瞬の顔で、少なくともコイツが今までどれ程自分の性癖で辛さを味わって来たか
それを僕は分かってしまった。
「・・・ごめん」
「何が?お前まさか同情してる?やめやめ、少なくともお前が俺と同じおオホモダチ
にでも目覚めたら、俺の方が同情してやるよ」
「それは、無い」
「だろ、じゃあ悩む事じゃねえ。都築もミサキも良いオン、いや俺と違って立派な人間だ。
お前はその片方に惚れてる。ほら頑張んねえと、この立派なモンで証明してやれって!」
そう言って沢良の片手が俺の然程立派とは思わないモノを、一瞬掴んだ。
「ちょ、このセクハラ変態両刀使い!!」
「だからぁ、恋愛の達人様だっつ」
そう言いながら沢良は満足そうにまた煙草を咥え始めた。
いつの間にか胸のつっかえが取れ、僕には空を見上げる余裕が戻っていた。
だから歩き始める直前足を止める。お前も立派じゃなくはないと言う代わりに。
「おい両刀沢良」
「にゃい(何)?」
「煙草本当に身体に悪いから、控えろよ。それにそんな不味いモノよく口に」
最後まで注意し終われない内に腕を捕まれ、唇越しに煙を吸わされていた。
初めて予期せぬ形で吸わされた煙草は予想以上に肺に苦味と苦痛だけを広げ、
ゲホゴホと何度も咽返り涙と鼻水でレンズが滲んで前が見えない。
「講習料。泣けるくらい良い話だっただろ」
「ば、ゴホっ馬鹿やろっ!は、初めゲホっ初めてだったんだぞ!!それに、風紀がこんなに
煙草臭くて・・・もう色々どうすんだ!」
ハンカチを取り出しレンズを拭く。裸眼では焦点が合わないかも知れないが睨まずにはいられない。
「お前・・・」
「何だよ変態」
「いや・・・・・・・・・やべぇ、かも」
「今度そんな姿見つけたらペナルティ倍だからな!」
そう言い聞かせ僕は屋上を後にした。多分立派に玉砕しに行く為に。

直後、今度は屋上に残り未だ赤面した沢良が悩む番になる。
「初めてって・・・煙草、だよな?でもあの表情は・・・それにキスした事は嫌がってたっけ?
え・・・マジやべ、てか俺既に玉砕??」