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旅先での再会

空港から外に出ると照りつける陽射しにみまわれた。
「あっつ。これ日傘必要だな。どーする買う?」
「女子か。いらねぇよ」
5月だというのにこの暑さ。
俺と一哉は沖縄にきていた。
最後を迎えるために。

「別れよう」
もう限界だろう、と一哉がいったのは1週間前のことだ。
俺たちは高校の教室で出会った。
ふたりの関係が親友から恋人へと変化をとげてから4年半。
大学生になり、就職も決まった俺たちの間には、気づけば大きな溝が生まれていた。
それは俺たちが半端に大人になってしまったせいだった。
好き、だけでずっと一緒になんていられないのだ。
自分の将来、周りの人間、相手の未来。
昔は見なくてよかった現実を日々思い知る。
そうしていつしか、その好き、ですら本当にあるのかもわからなくなった。
一哉のいうとおりだった。
俺たちもう、限界なんだ。

「最後に沖縄行かねぇ?」
そういったのは俺だった。
高2の秋、修学旅行で訪れた沖縄で俺たちの恋人としての関係ははじまった。
なら、はじまりの場所で終わりにしよう。
終わりの旅をしよう。
そこで最後を迎えよう。
一哉は情けなく笑ってうなずいてくれた。

記憶と古びた修学旅行のしおりを頼りに、あのころ行った場所を巡る。
レンタカーを運転する一哉の横顔は、もうバスではしゃいでいた少年のものではなかった。
あのころよりいくらか長い髪、骨ばって少しおおきくなった体。
血色がいいのか妙にあかい唇だけが昔からかわらないけれど。
国際通りにも美ら海水族館にも高校生の一哉はいなかった。
俺のとなりにいるのは、ひとりの大人の男だ。
いつだって全力で気持ちをくれた一哉はもういないのだ。

「でけーな」
「高校生の俺らぜいたくだったな」
目の前にそびえたつ大きなホテルを見あげる。
あのとき宿泊していたホテルはプライベートビーチも持つそれなりのところだった。
できれば泊まりたかったが、学生貧乏旅行の俺たちには高級すぎる。
修学旅行積立をしてくれていた親にいまさら感謝をした。

「ビーチ行こうぜ」
「宿泊客じゃないのに大丈夫か?」
「平気平気。堂々としてればなにもいわれねぇよ」
ホテルのロビーを抜けるとビーチが広がる。
白い砂浜に青より緑色の海。
時間体のせいか、くもりはじめた天気のせいか、俺たちの他に客はいない。
裸足になって波うちぎわに足をつけてみる。
海はまだ冷たかった。

「あのときさ、台風がきてたせいで海でぜんぜん遊べなかったよな」
「ああ、雨風ひどくて屋内で待機になって」
「みんなはホテル内のプールとかで遊んでた」
「でも俺たちはふたりでこっそりぬけだしてここにきてさ」
「あんな荒れた天気の中な。それからばれないように岩の陰に隠れて」

そこでおたがいに黙った。
さざなみが静かに響く。

「あ」
「ふってきたな」
くもり空からついに雨がふりだした。
雨はどんどん強さを増し、すぐに服も頭も、全身びしょぬれになる。
それでも俺たちはそこから動かない。ただ黙って海をみつめていた。
「亮二、きて」
ふいに腕をひっぱられ、足をもつれさせながらもなんとか一哉のあとをついていった。
ぬれた足に砂がまとわりつくのが気持ち悪かった。
立ち止まった先は、おおきな岩。少ししゃがんで身を寄せ合えば、岩は周りの世界から男ふたりを簡単に隠す。
くっつく肌は冷たくて熱い。
久しぶりに感じる息のかかる距離に、もどかしいようなくるしいような気もちになった。

「ごめん。好きなんだよ、亮二。俺はおまえが好きだ」
一哉の額にひとたばの髪がはりついている。
握られたままの手首にぎゅっと力がこめられてすこし痛い。
泣きそうに顔をゆがめる一哉の唇はやはりあかかった。

一哉がいる。いま俺の目の前に、一哉がいる。
なんだよ、いたんじゃん。
おまえこんなところにいたんだな。俺は、こんなところにいたんだ。
冷えた頬をふるえる指で触れる。
あのときした不器用なキスを思い出しながら、同じようにあかい唇にそっと自分の唇をよせた。
はじまるのだ。また、ここから。