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無気力系年下×おっとり系年上

おかえり、夕飯つくっといたよ。荻原さんが毎度の間延びした喋り方でそう言って、流しの前に戻った。
「俺もうやめます」
「学校?」
床に鞄を放り投げて椅子に座った。学校に通い始めた頃は目標があった、といえば嘘になる。
今はあの場所に行って、将来を語り合う友人たちの話を耳にするのも腹立たしく、
帰りの電車で広告を見ながら己の独創性のなさを思い知らされるのも苦痛だった。
「やめたらどうするの?」
荻原さんはこのアパートの二階に住んでいる。彼が昼間のバイトから帰ってきて時間に余裕のある日は、合鍵で部屋に入り、
簡単な食事を作っておいてくれる。「コンビニのばっかり食べてたらよくない」と荻原さんが眉をひそめながら提案してくれたことだった。
「わかんないよ」
いらいらして言い方が乱暴になった。頭の片隅で、荻原さんに悪いと思ったのに、その思いは口調にまるで反映されなかった。

使ったフライパンを洗い終えて荻原さんがエプロンを外した。
「仕事行かなくていいんですか」
「うん、もう行くけど、あのさ」
「もうほっといてよ。…俺ほんとは今日学校行ってない。昨日も。」
荷物を持って外に出ても、駅に着く前に全てが嫌になってしまった。
食事を作ってくれている荻原さんに出くわしてしまうのが怖くて、長い長い時間を潰して、日が暮れる頃にようやく部屋に帰る。
「俺なんにもできない」
自分の全てが疎ましかった。何より荻原さんに迷惑をかけているのが耐えられなかった。
荻原さんが隣の椅子に座るのが分かって、もういいから仕事に行ってくれと言おうとした。手に温かいものが触れた。
「僕と仲良くしてくれてるよ」
手を握られていた。荻原さんの手は、ピアノを弾くのが仕事なだけあって綺麗だった。
「口下手だから、友達ほとんどいないんだ。長谷川くん、いつも一緒に話してくれてすごく嬉しい」
握手するように手をとって、荻原さんが少しほほえんだ。
六つも年が離れていると思えないくらいに幼い顔で笑う人だな、と思って、こっちも何だか笑ってしまった。

それから駅まで荻原さんを送りに一緒に歩いた。荻原さんかわいいからもっと自信持って話せば、と言ったら彼は下を向いて照れ笑いをした。
改札の向こうの、ホームに降りる階段の直前でまた振り向いてくれた荻原さんに手を振りながら、明日は学校に行こうと思った。