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おっさんの純情

彼を形容する言葉はおっさん。その一言に尽きる。
おじさんでもオヤジでもない。何よりしっくり来るのはおっさんで、それ以上でもそれ以下でも似合わない。
顔の造形は悪くはないくせに、白髪混じりの髪は中途半端に伸びたまま自然派スタイリング。疎らに生えた不精髭は小汚さを強調させている。
ヤニ臭さを常に身に纏いながら、洗濯のしすぎでヨレヨレのシャツを好んで着て、最低二日は続けて履く靴下はとんでもなく臭い。
薄らと隈の浮くその表情はいつもどこか疲れているようで、半分死んだみたいな魚の目をしている。
猫背気味の丸まった背中はどことなく哀愁を感じさせるばかりで、偉大さは欠片もない。
趣味は競馬とパチンコで、週末は必ず競馬中継を聞きながらパチンコ台の前に三時間は居座る。
絵に描いたようなこのおっさんは見た目の汚さから女の子たちに敬遠されているらしいが、本人は至ってその原因に気づいていない。
ただ「女の子が仲良くしてくれない」と少し残念そうに話す。
「もう少し小綺麗にすればモテますよ」なんて言葉は絶対に言ってやらない。見た目の残念なこのおっさんの魅力を知るのは僕だけでいい。

「誠治さん」

名前を読んで手招きすれば、窺うような表情を浮かべて彼は重い腰を上げる。
ポンポン、とソファを叩いて隣に座るよう促す。
不思議そうにこちらを見てくる彼にふ、と微笑みかけて唇が触れるだけのキスをした。
途端、彼は耳まで赤くして顔を逸らす。
人生に草臥れたおっさんも、こういったことだけはいつまでも慣れないらしく、初心な反応を示す。
それがどうしようもなく可愛くて、彼と一緒に居るようになってから、キスを仕掛ける回数が格段に増えた。
そっぽを向いたままそれでも側を離れようとはしない彼を優しく抱き寄せて、耳に優しくささやいた。

「好きですよ」
「そ、そういうのは簡単に言うもんじゃない」

彼の声は緊張と恥ずかしさで震えていて、僕は小さく笑った。