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スマホ×ガラケー

私の主人、すなわち私の所有者は、近頃新入りにお熱だ。
「で、今は何の用事だったんだ?」
「道順の確認。いやーあの人ほんと方向音痴だねえ。僕が来る前はどうしてたんだか、心配になるよ」
「私にもナビアプリは搭載されている」
「へえ? まあ、そんなチンケなディスプレイとチャチなアプリじゃあ、さぞ苦労してたんだろうねぇ」
まただ。この生意気な新入りは、自分のスペックを鼻にかけているのか、やたらと嫌味な物言いをする。
「ああ、私は小柄だからな。虚弱体質な割に図体だけはデカい誰かさんと違って」
それにつられて、こちらもつい刺々しくなってしまう。カチンと来たらしい新入りがなにか言いかけたとき、
「っ!!」
私の身体が震えた。すぐに主人の手が私を取り上げ、身体を開き、耳元へと押し付ける。
『もしもし? うん、今向かってるとこ。ちょっと迷っちゃってさー……』
すぐ側で聞こえる主人の声が心地よい。あいつが来るまで、私はいつも主人の側にいた。
あいつとは比べものにならないかもしれないが、自分なりに主人に尽くしてきたつもりだった。
そう、私は自分から主人を奪ったあの新入りに嫉妬している。認めたくも、ましてや知られたくもないことだが。
やがて主人は通話を終え、私は鞄の中へ放り込まれた。しばらくして、新入りの様子がおかしいことに気づく。
いつもならすぐに絡んでくるのに、今はやけに憂鬱そうに押し黙っている。
「どうした。もうバッテリー切れか?」
沈黙に耐えかね、からかうように尋ねると、
「……僕らってさぁ、本来誰かとつながる道具じゃん」
奴は独り言のようにつぶやいた。
「僕は君よりずっと多くの仕事をこなせるのに、あの人と誰かをつなげる役目は君のものなんだなー、って」
そういえば、主人がこいつで誰かと話しているところを見たことがない。
メールのやり取りも、大抵私を通して行っている。だが、
「お前だってそういう機能がないわけじゃないんだろう?」
「勿論あるさ。けど、なんか電波とかアドレスとか色々事情があるっぽくて、使ってもらえない」
悔しさと寂しさが入り交じった声に、胸を衝かれた。優越感とも親近感ともつかない奇妙な何かがこみ上げてきて、
「無念だな」
何とはなしに、そんな言葉が出た。言ってみてから、それは私自身の心持ちだったのかもしれないと思った。
新入りはしばらく私の真意を測りかねていたようだが、哀れまれたと判断したのだろう、
「君みたいな旧式に、分かったようなこと言われたくないね」
ことさら突っぱねるように吐き捨てた。
いいや分かるさ、誰かの一番になれない痛みなら。
そう告げようとしたとき、再び鞄に主人の手が伸びてきた。今回はどちらが選ばれるのか、私も奴も身構える。
しかし、予想外のことに、主人は私達をいっぺんに掴み上げた。
右手で新入りの大きな液晶を撫ぜて、左手で私のボタンを押す。体内でコール音が鳴り響く。
『もしもしー? ゴメンやっぱり道分かんなくなって――うん、だから地図見ながら直に教えてもらおうと
 ――そう、スマホ見ながらガラケーでかけてる。やっぱり二台持ちにして正解だったわー……』
暫くの間、主人は新入りの画面と周囲を見比べつつ、私越しに道案内を受けて歩き続け、
ようやく通話相手らしき人と合流した。
仕事を終えた私たちは、再び鞄の中で隣り合わせになる。顔を見合わせると、どちらからともなく笑いがこぼれた。
「全く、手のかかる主人を持ったものだ」
「ほんとにねぇ。こんな調子じゃ、僕のスペックを持ってしても手に余るよ」
今までずっと、私の力だけで主人を助けたいと思っていた。
でも、この新入りが一緒なら、もっと主人の役に立てるというならば。
「共にあの人を支えていくしかないか」
「……まあ、ご主人サマのためなら仕方ないよね」
そう、全ては我らが主人のため。それだけのことだ。
だから、奴が台詞の割にどこか嬉しげだったのも、それを見て何故かほっとしたのも、きっと気のせいだ。