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タバコ没収

ちり、と音がして目の前に煙がふわりと揺らぐ。そうしてタバコに火を点けた瞬間、後ろから肩を叩かれた谷川は心底驚いた。
いつも人気の感じられないこのトイレは、隠れてタバコを吸うには穴場なのだ。
油断した、人など来ようものかと高をくくって個室に入らなかったのがいけなかった。
肩に手を置いたまま、沈黙。この手が教員のそれなら自分は罰せられるのだろう、そんな考えが音もない一瞬を長く感じさせた。

「おまえさんまたタバコなんぞ吸って、病気しても知らんぞ」

後ろに立つ男は、谷川のよく知った声でそう言った。今度は安心して、谷川は男に向き直る。声の主は気の置けない友なのだ。

「…青井、驚かさないでくれ」
「驚かすつもりなんてなかったさ。俺はただ生徒会長として、
タバコなんて不謹慎な行為に耽る同輩に注意を促そうとしただけだよ」

没収だ、青井はそう薄く笑って谷川がくわえていたタバコを奪うと、
手首を返してそれを自分でくわえてしまった。谷川の拳が青井の頭をこつんと叩く。

「痛いぞ」
「タバコが欲しいのなら今度から素直に言うことだ」

火を点けたばかりのタバコを奪われてしまった谷川はしぶしぶ、懐からもう1本のタバコを取り出す。
そしてどうやら箱に最後の1本だったマッチをすると、それは湿気ていたようで火は点かなかった。

「おいで谷川、火をやろう」

青井のくわえた火の点いたタバコの先と、谷川のくわえたタバコの先が重なる。火が移るまでの僅か、
互いの額が触れそうな距離に、谷川はらしくないと思いながらも鼓動を抑えられはしなかった。