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ノンケのイケメン→ハイテンションなオカマ

桐野君が姿を消したのは卒業式の一週間前だった。

口数は少ないけれど、誰かが困っている時にはそっと手を差し伸べてくれる。
背が高くて筋肉質で肩幅が広くて男前。
特定の彼女がいたかどうかは不明だが、噂では何人かの女の子達と経験してると言われていて
大人っぽい雰囲気はそういう余裕があるからだろうと僕達モテ無い男達は少しだけ嫉妬していた。


そんな彼に再会したのは僕が社会人二年生になる少し前の事だった。


あの頃と変わらず、桐野君の肩幅は広かった。
シンプルなドレスで鍛え抜かれた筋肉を覆い、似合わない化粧をした彼は、
周りの視線やヒソヒソと話す声を、まるで無いもののように
キレイに巻かれた長い髪を揺らせながら真っ直ぐ前だけを見て颯爽と歩いていた。

僕はその姿を美しいと感じたのだろうか。

声をかけると、あの頃とは別人のような華やかな表情で「久しぶり」と彼は笑った。

「みんな心配したんだよ」「今までどうしていたの?」「何で突然姿を消したの?」
「どうしてそんな格好をしているの?」「ずっとずっと会いたかったよ」

失った年月を埋めるような矢継ぎ早の質問に、彼は水割りのグラスを傾けながら「そうね」と言葉を探す。
「見ての通り、私はこんなんだから、ずっと自分を演じていたのよ。
 男らしくて強い自分をね……」
そう呟いた彼の顔がとても寂しそうで、僕は何を言ったらいいのかわからずに黙り込んだ。

「ごめん」
長い沈黙の中、搾り出すような声でそう言った僕を見て、彼はケラケラと笑いだす。
「嘘よ~、相変わらずアンタって真面目っていうか、簡単に騙されるっていうか、馬鹿っていうか、馬鹿っていうか」

「え?え?」

「私はね、昔から女装が趣味なの、でさ卒業式の前に妹のセーラー服来てウットリしてたのね自分の美しさに
 そしたら親父に見つかっちゃってさー、もう大喧嘩よ『お前みたいな変態は俺の息子じゃねぇ!出て行け!!』
 『あー出ていってやるよ!俺だってこんなクソみたいな家もうウンザリなんだよ!』って。
 母親は泣くし妹は失神するしで、もう大騒ぎよ。
 笑っちゃうでしょ?それで行くあても無いからとりあえず女装パプで働きだしたら
 これが楽しくて、美しいから人気も出るし男が寄ってくるしで浮かれてたらあっという間に5年目よ~」

昔の彼と、今の彼女と、本当の話と、嘘の話。
それが僕の頭の中でフラッシュバックのように飛び交うから、目の前がクラクラして倒れそうになる。

さらに彼が僕の顎を艶めかしい手つきで撫でながら
「アンタ、まだ童貞でしょ? 見ればわかるわよ~何なら私が筆おろししてあげようか?」
なんて言うもんだから、ますます僕の頭は混乱していく。

ファーストキスは水割りとタバコの味だった。
とりあえずそれだけは覚えておこう。
遠のく意識の中、僕はそう決断してまだ慣れない酒を一気に飲み干した。