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忠誠の誓い

 そっと手の甲に口づける。
 この手の主はなによりも尊いものだ。守るためならばどんな罪も犯してみせよう、そう誓い男は立ち上がった。
 辺りはしんとして静かだ。他には、誰もいない。
 草木も眠る夜の中、この男だけは起きている。他は皆眠っている。誰も起きては来ないだろう。
 なぜならそれが約束だった。
 眠る自分に他の誰も近づけるなと、かつて彼はそう言った。そして男は頷いた。

 男は窓を見やる。
 世界は闇のなかにあって、月も、星さえも眠っているようだった。
 だから、朝は未だ遠い。
 守るべき主は眠っている。
 眠っている。どれほどの時間が経ったか忘れてしまったが、一日二日でない事だけは確かだった。
 だから男はずっと、約束を守り続けている。
 最初は側付きの従者だった。その次は彼の幼い弟王子を、兵士を、騎士を。そこから先は、数えていない。
 だが何人も彼には近付けなかった。
 いつの間にかここは随分と静かになって、日中聞こえる音といえば、何かが外を駆ける音、鳥の囀りだとかで、かつてしていた人の声は聞こえなくなった。
 だから男の主は、安心して眠っていられるのだ。
 男は満足げに頷いて、そうして主の手に触れた。最近は随分と痩せてしまって、かつての柔らかな感触はない。
 それでも男は喜ばしかった。主が目を覚まさないのは、自分が約束を守れているからなのだ、と。