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そんなつもりじゃ無いんだけど

「まいったなぁ、そんなつもりじゃ無いんだけど…」


ああ、やっぱりそうだ。
普段はバカみたいにニコニコ笑ってばかりいるこいつが
眉毛をハの字みたいにして苦笑いしてるとこなんて、今まで見たことがなかった。


こいつとは2年で同じクラスになってから、本当にいつも一緒にいた。
いや、1年の冬に転校してきて学校に馴染めず、一人でいる方が気楽だったおれを、こいつは独りにしてくれなかったんだ。
たまたま同じクラスってだけなのに、休み時間毎に隣にやってきては話し掛けられ
何を聞かれても的外れな言葉を吃音りながら返すことしかできないおれに、こいつは言った。
「おもしれー!井野ちゃんみたいな奴、俺大好き!」

それ以来こいつは事あるごとにおれに絡んできては、背筋が寒くなるような好意の言葉を浴びせてきた。
「可愛い」、時には「最高のダチ」、挙げ句「抱きたい」と言われたことまである。


それなのに、おれが最初に覚えたコミュニケーションは、こいつに悪態をつくことだった。
「みんなー!今日から井野ちゃんは俺の嫁な!」「お断りだ!」
おれが珍しく人前で声を発したこともあってか、周囲にざわめきが起きた。
それ以来、おれ達のやり取りは夫婦漫才と称され、クラスのちょっとした名物になった。
生まれて初めて、三人以上で遊ぶような友達ができた。女子にも話しかけられるようになった。
こいつがあまりにも色んな言葉で愛情表現をしてくるから、おれも色んなツッコミを考えるようになった。
だが問題は、口から出る悪態とは真逆の感情が芽生えてしまったということだ。


真っ暗闇だったおれの世界を、太陽みたいなこいつが変えてくれた。
おれはもう、こいつ無しでは生きていくことができない。
そう気付いた時、父親から転勤を伝えられた。

明日、おれは転校する。こいつとはもう会えない。
最後にせめて自分の気持ちを伝えたくて、こいつを屋上に呼んだ。
わかってるよ。こいつにとっておれはただの面白い友達の一人。
わかってるくせに、頭が混乱してるからなのか、自分の願望からか
「『おれも』お前が好きです。付き合って下さい!」なんて言ってしまった。
その返事が「そんなつもりじゃ無いんだけど…」である。


予想通りの結果なのに、今までのツッコミを纏めて返されたみたいで、下を向いたまま動けない。
でもいいんだ。明日からこいつはこんな気持ち悪いホモに会わなくて済むんだ。
ごめんな。ばいばい。おれの大好きなトモダチ…。



「ッたく、おれの初恋を返せよ!」
「うわぁぁぁぁお許しください井野様ぁぁ!」
大学生になったおれは、何の縁かこいつと再会した。
そして再会したその日に、こいつはおれに告白してきやがった。どうやら、おれ達は両想いだったらしい。
こいつは遠距離でおれに辛い思いをさせたくなくて、嫌われた方がスッキリ別れられると思ってあんな事を言ったそうだ。
「じゃあさ、今度の日曜に学ラン着てデートしようぜ!井野ちゃん!」
「そんなつもりじゃ無いんだけど…」
今となっては、これはおれ達の間でお決まりのツッコミとなっている。