※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

コンビニ店員×強盗

「金を出せ!」
「藤堂和弥?」
 ほぼ同時に響いた声。怯んだのは、強盗の方だった。サングラスとマスクで顔を覆っ
ているため表情は見えないが、あからさまに体を竦ませ後じさった。
「藤堂和弥だろ?」
 ナイフを目の前に突き出されているにもかかわらず、店員の方に動揺は全くない。どこ
ろか、カウンターに片手を付いて身を乗り出した。
「俺のこと忘れちゃった? 同じ高校だった皆川だよ。皆川晋! 久しぶりだなぁ、卒業式
以来だ。結局進路聞けないままだったけど、おまえも上京してたんだな、でもここらじゃ
会ったことないよな、こんなとこで何してんだよって訊くまでもないか!」
 あはは、と緊張感無く店員、皆川が笑う。緊迫感がまるでない。
「ひ、人違いだ!」
 マスク越しでも、ひっくり返っているのが分かる声で怒鳴り散らす。皆川の勢いに気圧
されて弛みかけていた肘を伸ばし、再びナイフを突きつける。
「黙って有り金だせってんだよ!」
 声も震えていたが、ナイフを握った手も小刻みに震えていた。
「えー、どう見ても藤堂じゃん」
 が、皆川は気にした様子も見せず、不満そうに言う。そして無造作に手を伸ばし、強盗
のサングラスとマスクをむしり取った。
「やっぱり藤堂だ」
 にっこり笑う。
 呆気にとられるというのはこういう状態を言うのだろう。強盗、藤堂和弥はあまりのこ
とに言葉を失った。呼吸も止まっていたかもしれない。
「色々と気まずいのは分かるけどさぁ、他人のふりはひどいよ~」
 わざとなのか何なのか、皆川のずれまくった対応に、藤堂の中にふつふつと怒りがこみ
上げてきた。俺傷ついちゃう、などと付け加えられた日には、そういえばこういう奴だっ
たと怒りが一気に沸点に達した。
「ふざけんのもい――」
「なぁに騒いでんだぁ?」
 怒鳴りかけた藤堂の声に被さり、ドアの開く音と間延びした第三者の声。
 バックヤードから皆川と同じ制服を着た店員が出てきた。
「あ、先輩、おつかれさまっす」
 先輩店員の目が、さわやかに挨拶をする皆川とナイフを突き出す藤堂を二巡した。
「えーっと、通報した方がよさげ?」
「いえ、必要ないです。こいつ友達なんですけど、罰ゲームで強盗のふりで俺にどっきり
仕掛けてこいって命令されたらしくって、お騒がせしちゃってすんません」
「なっ」
「あぁ?」
 先輩店員がうさんくさそうに、二人をもう一巡見やる。納得したのか、頭をがりがりと
やると、溜息をついた。
「ったく、なんだそれ」
「すんません」
 再び頭を下げた皆川に、先輩店員がしっしっという風に手を振った。
「わぁったから、退勤オレが付けといちゃるからそいつ連れてとっとと帰れ」
「ありがとうございます」
 言うが早いか、皆川はその場で制服を脱いで先輩店員に渡すと、またもや呆気にとられ
て身動きできずにいた藤堂の腕を掴んでコンビニを出た。

「っ放せよ!」
 コンビニを出てからずっと握られっぱなしだった手を、藤堂が無理矢理引きほどいた。
勢い、握ったままだったナイフが手から滑り落ち、道路の上を滑っていった。
 藤堂は肩で息をしていた。皆川は藤堂に背を向けたまま、さっきまでが嘘のように静か
だった。
「……よく、おれだって分かったな」
 ぽつり、藤堂がこぼす。
「俺が、藤堂を、見間違うはず、ないでしょ」
 小さな声だった。
「なんで、あんなことしたんだ」
 藤堂が顔をゆがませた。
「金が欲しかったからに決まってんだろ」
 言い切った声は、けれど、藤堂自身がうろたえるほど弱々しかった。
「ふーん、借金でもあんの」
「わりぃかよ!」
 藤堂はいっそう顔をゆがませ吐き捨てる。
「……どうせまた、碌でもない女にひっかっかったんだろ」
「あ?」
 怒気をはらんだ声に、図星か、と皆川が嘆息する。
「高校の時もそうだったよね。頭の悪そうな女に貢ぎまくって挙げ句捨てられて、何回繰
り返しても学習しないし、挙げ句落ちるとこまで落ちてちゃ笑い話にもなんないだろ」
「っるせぇよ!」
 一気に沸点に達したらしい藤堂が、皆川の方を度ついて胸ぐらを掴みあげた。
「知ったふうにカタッてんじゃねぇ!」
 下から睨み上げて怒鳴った藤堂を、ぞっとするほど冷たい目が見下ろしていた。
「知ってるよ、ずっと見てたんだから」
 藤堂が怯む。
「ねぇ藤堂、忘れてるの? 俺が卒業式に言ったこと」
「なんっ」
 藤堂の顔がさっと青ざめ、手を放して離れようとするが、寸前、皆川の手が藤堂の手を掴んで引き寄せた。
「なんだ、ちゃんと覚えてたんだ。忘れられてるのかと思ってた。さっきも俺に全然気づ
かないし、藤堂って案外友達甲斐のない奴だよね……なんて、俺が友情ぶっ壊したんだけどね」
「は、なせ」
「放さないよ。ここからが本題なんだから」
 ほほえみさえ浮かべながら、皆川は握る手にさらに力を込める。
「ねぇ、そんなに金に困ってんだったら、俺がおまえをかってやるよ」
「は?」
「察しが悪いなぁ、借金代わりに払ってやるから、俺に抱かれろって言ってんの」
「なに、ふざけたこといって」
「ふざけてなんかねぇよ」
 言いながら、掴んでいた皆川の手に口づけを落とす。
「拒絶しないなら承諾したととるが、どうする。ま、強盗するまで追い詰められてんだ、
選択肢なんか他にないだろうがな」
 目の前で、見たこともないような笑みを浮かべる男を、藤堂はただ呆然と見つめることしかできなかった。