3対3

「推進派の意見は甚だ単純、理性ある人間として耳を傾けることはできません。
 そのような本能に基づくだけの拙劣にして愚昧な行動を私は許さない。
 そもそも社会的、道徳的にどうなんだ。
 友人、それも同性にこのような気持ちを抱くだけでも異常なのに、みだらな行為まで欲するというのは?
 社会人として、まともな大人として、軽挙は厳に慎むべきだ」
「なんちゅー頭の固さ! 本能上等じゃねーか。
 欲望、イズ、パワー! だ! ゴチャゴチャ言っても結局はこれだよ!
 どんなにすましててもちんちんついてるだろ? 男だろ?
 やりたいやりたいやりたいやりたい! そう思う何が悪いんだ?
 あいつとやれたら死んでもいい! あー舐めたいしゃぶりたい入れたい!
 あいつと気持ちよくなりたい! あーもう考えるだけで」
「まあまあ、そうは言ってもさー。
 ……まあ、わかるよ? 情熱とかってさ、この、熱ーい気持ち? 燃える衝動、まあ、わかるよ。
 正直好きすぎるっていうか、俺、もうあいつがいないと無理。大好き。
 けどさ、あいつは中学からの長いつきあいなんだ、ちょっと照れるけど、親友なんだよ。
 今でも、自転車で一緒に帰ったなぁ、とか、部活を地味にに頑張ったなぁ、とか、
 悩み聞いてもらったな、あんときは好きな女の子の話だったけど……なんか嘘みたいだね。
 いまでもこんなことになって、一番戸惑ってるのは僕なんだ。
 あいつのことが好きだ。親友なんだ。
 だからこそ大事にしたい、そう思うのは別におかしくないだろ?」
「でも、だからこそ、見たい知りたいってのあるよね? どうよ正直? おりゃおりゃ。
 未知の世界、知らないあいつ、その全てを手に入れたい!
 そう思っちゃうよね?健康な男の子だもん、なんて。
 そもそもー ぶっちゃけー、声を大にしてー……『目指せ! 童貞卒業!』ぱふぱふぱふー!
 うじうじ考えるのはお互い深く知り合ってからでもいーじゃん!
 あー、あいつどんな顔するだろう、って考えるともうたまらん感じー」
「いやいやいやいや……それ、怖いだろ?
 だって嫌われるかも知れないよ、っていうか、嫌われるよ普通。
 親友だと思ってた奴が好きだとかやっちゃうとか……
 このままだと無理矢理、なんてことになりそうじゃん、やりたがってるお前ら、すでに暴走気味だし。
 あいつも怖いだろうし、俺だって自分が怖すぎる。
 嫌われたらもう二度と友達に戻れないよなぁ……そうなったら俺……」
「怖い、とか言ってるうちにあいつに彼女でもできたらどーするの?
 なんでそんなのんびりやってられるかな、俺はもう気が気じゃないのに。
 心配だなー、最近格好良くなってきてないか、あいつ、とか考えるだけで走り出しそう。
 メール待っちゃったり! 速攻返事したり! でもキモイから10分待ったり!
 あーもう早く! 俺だけのものに! そもそも童貞も捨てたいし!
 というのは置いといても、でもそこも重要だし! 毎日なんも手につかない感じ!」

意見は、今日も3対3にきっかり分かれてしまう。
皆が俺をふりかえり、声をそろえて言った。
「お前はどう思う? お前が決めろ。お前はどうしたいんだ?」
この幾度となく重ねられた未だ結論のでない議論。
意見を戦わせるのは、良識、性欲、友情、好奇心、恐れ、焦り。
3対3に分かれて、延々と平行線な論争を繰り広げた末、皆が最後に俺に尋ねる。
俺はどうしたいのか? と。
結局、自分がキーなのだ。わかってる。わかってるが決められない。
理性が止め、性欲に悶え、友情に泣き、好奇心を秘め、恐れ、焦る。
そのすべてが俺のせいだ。わかってる。俺がきめなければいけないんだ。
俺の名は、あいつへの愛情。
きっと許されない存在。でも、ひょっとしたら受け入れられるんじゃないか。
葛藤につぐ葛藤。眠れない夜。もうそろそろ限界だ。
決着はそう遠くない。


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最終更新:2011年09月30日 23:11