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命令違反

血と汗と、硝煙の混じった臭いが体中に纏わりつく。
抱き抱えた彼の服は真っ赤に染まり、流れ続ける血液は、妙に非現実的な物に見えた。
「ああ、ドジったな」
そう笑う彼は、血塗れでなければいつもと変わらない口調いつもと変わらない会話だった。
腕の中の彼の鼓動に合わせ、傷口から血液が溢れ出る。
この戦いの間に嗅ぎ慣れてしまった鉄の臭いに、全ての感覚が麻痺していく。
「お前は、生きろ」
真っ白な顔色。
「生き残って、結婚して、年とって。骨と皮の爺になって」
細い呼吸。
「俺の、最後の命令だ」
「………はい」
冷たい手。
「ひとつ、頼まれてくれるか」
「…はい」
血まみれの手で、軍服の釦を一つ引き千切る。
「もし、俺の故郷に行くことがあれば…これを女房に渡してくれないか」
子供が、生まれてる筈なんだ。
そう言って、俺に釦を握らせて彼は動かなくなった。
動かない体。二度と開かない瞳。
なのに、温かい血。

「………ごめんなさい」
貴方の命令はきけません。
貴方が居ない世界に、俺が生きる意味は無い。
貴方の物は、例え釦一つ髪の毛一本でも誰にも渡さない。
やっと俺のものになった。俺だけのものになった。
俺たちが逃げ込んだ場所は火薬庫。
掌の貴方の釦をごくりと飲み込んで、俺は貴方の銃を持って立ち上がった。