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好き好き×はいはい 続き 生徒視点

先生の第一印象は覚えてない。多分気にも留めていなかった。
あの頃の俺は、とにかく自活するだけの金を稼ぐので精一杯だったから。
高校に入学した当初はまだ勉強とバイトの両立ができていた。
でも授業の内容が難しくなりだすと、元々出来のよくない俺の頭は早々に音を上げた。
学校でダウンする時間が大幅に増えたのは二年に上がった頃だ。
元来チャラい見た目に加えて、英語は一番苦手だったから睡眠時間に当てられやすいこともあり、先生の俺への心証は最悪だったと思う。
俺を見る目はすごく不機嫌そうだったし、俺もそんな先生が苦手で避けるようにしていた。

それが変わったのがいつかははっきり覚えている。
夏になる少し前、ドジをして怪我をしたせいで予想外の出費をしてしまい、いつも以上にバイトに追われていた頃だ。
一応学校には来ていたけど、もうヘロヘロで、授業を聞くどころかしゃんと椅子に座ることすら出来ていなかった。
昼休み、いつも一緒にバカばっかやってるクラスメイトが心配するくらい俺の様子はひどかったらしい。
「お前顔色悪くね? さっきの英語もずっと寝てたじゃん」
「しゃあねえだろーバイトよバイト。もー今バイトが一番大事だもん」
言いながら廊下に出たらパンを抱えた先生と鉢合わせした。
聞かれた。やべえ。
真面目そうだし俺のこと嫌ってるだろうし、バイトなんかやる暇あるなら勉強しろとか言われる。
俺は身構えた。
でも先生はふっと笑ったんだ。
「あんまり無理するな」
すげえ優しい声だった。一瞬幻聴かと思った。
「明日の俺の授業、今日みたいに青白い顔するなら来るなよ。来たら強制的に保健室行きだからな」
そう言って俺に向かって缶ジュースを投げてきた。
受け取ったらあったかいおしるこだった。
「甘いものは頭の働きをよくするんだ。間違って買ったからやる」
その瞬間、俺はトスッという音を聞いた。
キューピッドが俺の心臓めがけて矢を放った音だ。
もう暑いのにおしるこ? とか間違って買うとか意外とドジ? とか色々思うところはあったけど。
何より先生が本当に俺を心配してくれてるんだって感じたら、俺は先生が堪らなく好きになっていた。

その日から俺は先生に猛烈なアタックを開始した。
英語の授業はなるべく寝ない。
休み時間は先生の準備室に押しかける。
愛の言葉は惜しまない。
彼女がいない、三人兄弟の次男など周辺へのリサーチもばっちりした。
当然隠す気は微塵もなかったから俺の気持ちはバレバレだ。
だけど先生は、最初こそ戸惑っていたみたいだけど、すぐに慣れて右から左に受け流すようになった。
「先生おはよう今日も可愛いね!」
「おはよう上村、お前の頭は今日も残念だな」
「先生聞いてよ俺今月リッチだよ、遊園地デートしようよ奢れるよ!」
「あーありがとよ。代わりにその金で参考書買って自習ノート提出してくれ」
「先生マジ好き愛してる! 先生は俺のことどう思ってる?」
「若干頭が残念な可愛い生徒。以上」
こんな感じ。
俺がボールを投げまくっても先生は素知らぬ顔でカンカン明後日の方向に打ちまくる。
当然俺は焦れまくったけど、先生は全然態度を変えなかった。
俺がアホなこと言えば張っ倒して、授業のわからない部分があればそれが担当外でも真面目に丁寧に教えてくれた。
でもそうやって半年ぐらい過ぎた頃、俺は先生が時々すごく優しい目で俺を見ているのに気がついた。
問題がわかんねーと呻いてるとき。
好きだって言っても相手にしてくれなくてへこんでるとき。
疲れ果てて教科準備室のソファで寝ちゃったとき。
先生は静かに目元だけ柔らかくして俺を見るんだ。
それが他の人の前ではそうそう出ないってことは知ってる。
俺、四六時中先生のこと見ていたから。
そのとき、俺は先生が俺のことをどう思っているかわかった。
でも喜ぶより恥ずかしくなった。
先生は言葉にするだけが方法じゃないって知ってるんだ。
俺のこと、本気で考えてくれてるから。
先生は大人だ。先生はカッコイイ。
それに比べて俺はどうだ。
先生に見合う男になりたい。
先生が胸張って隣にいてくれるような、カッコイイ男になりたい。
本気でそう思った。
英語以外の授業でも寝なくなった。
バイトをやめることはできなかったから、遊びをばっさり切り捨てた。
予習復習をできる限りやって、わからないところがあれば先生以外にもクラスメイトや他の先生に教えてもらいに行った。
試験順位が二桁前半に食い込んだとき、皆驚いたけど先生だけは「頑張ったもんな」と笑ってくれて、マジ嬉しかった。
一校だけ受けた滑り止めの私立に受かって、前の俺なら逆立ちしても無理だった本命の国立もA判定が取れて、先生は自分のことみたいに喜んでくれた。
全部昨日のことみたいに思い出せる。
先生、先生、好きだよ。俺、先生の隣に並べる男になれたかな。
着古した学ランを今日ばかりはキッチリ第一ボタンまで閉めて、卒業証書を肩に俺は歩きだした。
目指すのはもちろん英語準備室。
ドアを開けたら先生が眩しそうに俺を見る。
その顔を見てたら堪え切れなくて気がついたら叫んでた。
「隆文さんマジ好き愛してる!」
「いきなり名前かよ!」
いつもどおりの色気のないツッコミを入れられたけどいいんだ。
抱きしめたら耳を真っ赤にして俺もだよって返してくれたから、俺、それだけでいいんだ。