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スーパー受け様

こんなシチュな思い浮かんだ

ガード下のおでん屋。
終電と共にくたびれたサラリーマンは去り、わずかばかりの収入があった日だけホームレスは飲みにいく。
いつものように空き缶拾いで得た折り目の入った千円札を握り締めて屋台に近づく。
いつもなら誰もいないのに今日はやけにお上品なスーツがいた。
つるしじゃなくてオートクチュールのもの、布はミラノのあのブランドのものだ。
そういう「お上品」なものを見るとあの子を思い出す。
酒を呑む気分じゃなくなって出直そうかと思った。
「おいアンタ、さっさと座れ」
寡黙な大将が珍しく声をかけてきて、背を押すように木枯らしが寒くて、ホームレスはのろのろとできるだけお上品スーツから離れて腰を下ろした。
こんな場末の屋台にお上品スーツが来るなよ。
落ちぶれたわが身の忸怩さ、あの子への郷愁と戒めで、八つ当たりのように煮込まれる具を睥睨する。
「いつもの」とまだ何も言ってないのに、大将が大根と卵、もち巾着、それと熱燗を出した。
「どうぞ」
声に驚いて横を見ると、お上品スーツが眩しくて、でも愛しくて堪らないとばかりに微笑んでいた。
「あの」
「私は見てのとおりな育ちでしてね。今日以外はおでんなんて人生で子供の頃に1度食べたきりだったんです。
『そんな勉強より子供は夜寝て、昼間遊んで、ゆっくりと大人になればいい。大人といっても頭でっかちじゃだめだよぼっちゃん』
そういってこっそり自分のためにこっそり家を抜け出して買ってきたおでんを、私に食べさせてくれたあの味が、あの人が忘れられないんです」
あんた、いやあんたじゃない。ぼっちゃん。若い頃に働いていた屋敷のぼっちゃんが大人になって座っていた。
「ぼっちゃん…」
あの小さかった子が立派になって。
俺は震える手を上げ、薄汚れて節くれだってしもやけやあかぎれだらけのそれに触れてはいけないと引っ込めた。
だけどぼっちゃんはそっと右手を包み込むと、いとおしげに中指に触れる。
「汚れちまうよぼっちゃん」
「ふふっ子供の頃は私に『子供は遊んで汚れるもんだ』って無理やり木登りさせて、
案の上僕は木から落ちて、あなたに受け止めたれた。
あのときあなたの指の爪がはがれて、こんな風に爪が歪んでしまって、僕は申し訳ない気持ちでいっぱいだった」
何言ってるんですか。この爪はぼっちゃんと私を結ぶよすがになっていたなんて、ぼっちゃんは知らないでしょう。
「…ぼっちゃんもボンボンのくせに鉛筆の持ち方だけは癖があって、中指にペンだこつくってるじゃねぇですか」
「それは言いっこなしだよ攻めさん。
子供だった私を抱っこして頭を撫でてくれる攻めさんの手が大好きだった。
…今度は私に攻めさんを抱きしめさせてくれませんか」