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受けさんはずるい大人です

喫煙とは、無意識下の自殺である。
 どこのどいつが言ったか知らないが、きっとそいつは一分の隙もなくスーツを着込み、
死の煙で肺を満たしたりはしないんだろう。
 ちょうど今、俺の目の前に立つ、こいつのように。
「なんで……!」
 絶望の表情を浮かべる顔を引き寄せて、ゆっくりと紫煙を吹き付ける。
 やかましく何か囀ろうとした口が、たまらず咽る様子が可笑しい。
「なんでって言われてもねえ」
 二本目の煙草に火をつけて、空っとぼける。
「お前の体、もう飽きたわ」
 そうして、にっこりと微笑んで言ってやる。
 作り笑顔がばれない自信はあった。何て言ったって年季が違う。
 何事もなかったように別れていくのには、慣れている。 
 煙草の毒が俺の致死量を超えて積もり積もったとしても、それが無意識の作用ならば致し方ないのだ。
 知らぬ間に自殺志願者であるらしい俺は、少なくとも理性のある内は泣いたり喚いたりしないことにしている。
 ああだけど、そんな顔を見るのは好きじゃない。
「俺は、あんたのことが……!」
「――坊や。俺と遊ぶのは楽しかったか?」
 毒を捻じ込む。副流煙より強烈な悪意を。

 その眼が憎しみに満ちていれば、あるいは軽蔑の色を宿していれば、本当に良かったのに。

「俺の方も、まあまあ楽しめたよ。でも深入りするのは嫌いでね」
 見合いの話、断ったんだってな。 
 お前は馬鹿だ。
 こんないい加減な男に本気になるだなんて。
「……それが、あんたの、望みなんだな?」
 本当にお前は馬鹿だ。
 必死になって泣くまいと我慢しているのが丸解りだ。
 偉そうにしてるくせに、そういうところ、餓鬼だっていつも言ってんだよ。
 手を伸ばして目の淵を拭ってやりたいと思ったけれど、あいにくと今は煙草の煙幕を張るのに忙しい。
 真っ赤になったお前の目からぼろぼろと涙が零れるのを見ても、俺はただ知らない振りをしていた。