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宇宙人×地球人

「やだー!連れて帰るー!」
「いけません!」


信じられない光景が広がっていた。

広さだけは無駄にある(寧ろ、ただ広い以外は何もない)ひいじいちゃん家の裏山、そのススキ畑の上を、同心円状の風がごうごうと撫でていた。
その中心にあるのはマンガのような円盤型UFO、銀色の服を身につけたいかにもアレな青年に、……地べたに座り込んで駄々をこねる、見知った顔の少年・リコだった。


「ちゃんと世話するからあー!」
「あのね、世話したって、すぐ死んじゃうの。地球人は。そしたら今日よりもっと悲しい思いをすることになるから。な?」
「な?じゃないもん!いやなものはいやなのー!ばかばかばか兄ちゃんの分からず屋ー!」


兄らしき人物に掴みかかり、今時おもちゃ売り場でも見ないようなひどい容態で泣き叫んでいる少年は、確かにさっきまで俺と遊んでいたリコその人だった。
周りが余りにも慌ただしいとその中心はかえって冷静になるものなのか、俺はその時、リコと初めて会った時のことを思い出していた。



透き通るように白いひょろひょろの体を見て、すぐに都会モノだと分かった。
はじめ、リコは川原で水切りをする俺をじっと見ていたが、そのうち自分も平らな石を探しだしてきて、隣で投げ始めた。
それがあまりにも下手くそだったので、見かねた俺は教えてやることにした。
二人が友達になるのに、それ以上の理由はいらなかった。


都会モノはみんなそうなのか、リコは目にするものを何でもめずらしがった。
鯉、ビー玉、段ボール、草笛、一輪車……そんなありふれたものにもいちいち驚嘆の声を漏らすそいつが妙に面白く、時間を見つけてはあちらこちらに連れていった。
お互いのことを話すうちに、リコが「夏休みを使って遠いところから遊びにきた」ことまでは分かったが、学のない俺は聞いてもどうせ分からないと思って特に深くは触れなかった。
名前や振る舞いから、何となく外国のどこかから来たような気はしていたが、……まさか地球ですらなかったなんて、誰が想像しただろうか。

「やだやだやだー!一緒に帰るー!」
「地球なら、また来年の夏休みに会いに来られるじゃないか」
「来年!?学校で習ったよ!地球人の時間単位って僕らの1/20なんでしょ!来年じゃもう遅いじゃない!その頃にはきっとずっと大人になっちゃってて、僕を見ても誰だか分からなくなってるよ!」
「その時には、また別の子どもと遊べばいいだろ」
「そんなの楽しくない!他の子どもじゃ嫌なんだ!だって、だって僕は」
「聞きわけのない奴だな!地球人のこの子にも家があるし、家族もいる。それをこっちの勝手で連れていく訳にはいかないだろ!……大丈夫だよ、今は辛いだろうけど、少ししたら平気になる。そういうもんだ」


その言葉を聞くと、リコは観念したのか、ぐずぐずと鼻をすすりながら静かになった。
正直、聞いてるこちらには話の半分も理解できていなかったが、とにかく、さっきまで仲良く遊んでいた弟分は、あと少しでひどく遠いところに帰らなければならないらしかった。

……仕方ないな。俺は短く息を吐いた。
それから、相変わらず不思議な風を撒き起こしているUFOに勇気を出して近づくと、まだ鼻を赤くして泣いているリコに、大切にしていたラメ入りの野球カードを差し出して言った。

「パスポートだ。やるよ」

リコは手を伸ばすと、恐る恐る野球カードに触れた。
赤く潤んだ瞳で怪訝そうに俺を映すリコに、俺は続けた。

「次にお前が来るのが何年も後で、俺がすっかり大人になってたとしても。このパスポートを俺に見せたら、また友達になってやるよ。」

リコの目に、収まっていたはずの涙が一気に溢れた。
俺が手を離すと、代わりにリコの指がカードをぎゅうと握りしめた。

「……お前よりずっとずっと大きくなった体で、今度は肩車してやる。覚えてろよ」

リコは何かを言おうとしたが、それはすぐに嗚咽に飲み込まれた。
言葉もなく、ただぶんぶんと首を縦に振るだけのリコを、俺は落ち着くまでしばらく撫でていてやることに決めた。その時だった。

「遅かったな」

後ろで不意に聞こえたのは、ひいじいちゃんの声だった。
その声に、リコが、俺が、……誰よりリコの兄ちゃんが、驚き振り向いた。

「……君は……」
「分からんか?お前がすぐに会いにこないから、こんな皺だらけになっちまったよ」

ひいじいちゃんがかっかと笑うと、対照的にリコの兄ちゃんは今にも泣き出しそうに、くしゃりと顔を歪めた。

「……分からない、はずが、ないだろ……!…………なんで……君が……」
「なんでも何も、俺はずっとここにいたさ。約束通りな」

ひいじいちゃんが拳を前に突き出すと、リコの兄ちゃんは震える手で拳を作り、小さくぶつけた。

「おかえり、兄弟」



傾きはじめた日が、銀色だったUFOを眩ゆい橙色に染めあげていた。