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年越した瞬間に殴られた

俺は結構な嘘つきだ。
どれぐらい嘘つきかといえば、まだまだ愛が残っているというのによりによってクリスマスにひどいやり方で別れ話を切り出すぐらいといえば分かるだろうか?
さて何故どうしてそんなことになったかという理由はまあ割愛するとして、結果俺はひとり寂しく年越しかといえばそうでもない。
こんな俺にも十年来の友人がいる。名前を山田。
そいつがお屠蘇なんかをご丁寧に作ったうえに年越し蕎麦もセットでネトゲなんかを決め込みながらだらだらしていた俺の家にやってきたのである。
そしてようヒマそうだなひとりもん同士飲もうぜときたものだ。普段なら拒んでいるがなにせ年末の寂しさよ、と家に上げたのが間違いだった。
時計の針が進むにつれ机に置かれたビンから日本酒の量は減ってゆく。それを苦とも思わずにテレビで紅白なんて見ながら酔うがまま色々話をして、
年越し30分前に殴られた。まあ軽いものではある、あるのだが、いやいや待て待てどうしてそうなる。
そしてどうして泣いているんだお前が。どっちかというと泣きたいのは俺だろうが。
「うるせえよ。うるせえ…」
俺のそんな声にもそう言ってさらに山田はすすり上げる。なんだどうしてこうなった。

確か俺はクリスマスのことを否応無しに思い出しつつも結構楽しく飲んだ筈だ。そしてこいつも飲んだ。
だいたい俺もこいつも酒に弱いわけではないので丁度良くほろ酔い気分で話していたはずなのだ。色々と。
酒の力で確かに少しいつもよりは口が滑ったかもしれないが、多分嘘が減ったってわけでもなかっただろう。
そもそもこいつがどうして俺の友人かというと俺の嘘つきをよく知っているからだ。知っている上で俺の隣にいるからなのだ。
そしてそうであるからには俺だってこいつの趣味だとか考えていることがそれなりに分かる。その筈だというのになんでこうなった。俺には全くわけがわからない。

「だって嘘だろ。嘘じゃねえかぜんぶ」
「全部って何だ失礼な」
そう言いながら何を話していたのかを酔いが幾分か冷めた頭で遡る。しかしまだ酒の緩みは残っていてなかなか肝心の部分まで辿りつかない。
なんだったなんだった。正月の話大学の話バイトの話紅白のメンツが年々よく分からないことにしかし今年の冬は寒い、そういえばクリスマスはホワイトクリスマスだった…で、
そう。そうだ。彼女とホワイトクリスマス、樅の木の前で別れ話をしたときの話をしたんだ。そんで、そんで。
気がついた。
「お前俺のこと好きなの」
「そうだよ馬鹿。だっつうのになんだよもう、諦めたかったのに…嫌いになったから振ったとか嘘だろ。俺には分かるんだからな。
 どうせ彼女に好きな奴でも出来て身をひいたんだろ。どこの漫画の当て馬だよ…」
…流石山田。気持ちいいぐらいにほぼ正解だ。ほぼ。
「ああもう。散々だ…折角お前と飲めたのに。飲めたのに…」
気持ち悪いだろ、笑えよ。彼がそう言う。折角なので笑ってみると、いやそうじゃなくてとか言われた。
その泣き顔があまりにあれで、声だって辛そうだったので口を口で塞いでみる。顔を離すとぽかんとした顔。
さて種明かしをしようか。じつに単純な構図だけれども、実を言うと彼女が好きだったのはお前だ。お前だよ山田裕司。
だから俺は別れた。お前じゃなかったらもう少し粘ったけども、身を引いたのだ。
そこまで言えば、目に涙を貯めたままの山田が、緩く唇を動かして、なんで、と小さく掠れた声を紡ぐので俺はにやりと笑ってやる。
「だってそうだろ。俺はお前が気持ち悪いし、大嫌いだ」

年越した瞬間に殴られた。
理由はひとつ。こんな時ぐらい嘘をつくな、だそうである。
一寸理不尽に思えないでもないがまあ俺も悪いし仕方ない、なので、
「今年もよろしくお願いします」
と、とにかく一言、添えておいた。