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好きと嫌いの境界線

女の子は好きだ。

白くてかわいいし、触るとやわらかいし。
きゃいきゃいとよく動く口はちょっとうるさいと感じることもあるけど、かわいらしい声でかっこいいとかイケメンだとか言われるとなかなかいい気分にもなれる。

だけど。

藤沢は遠目に見える連れの姿を、すうっと細めた目で見つめた。
藤沢から二十メートルほど離れたところで話す男女。
女の子の方は、なめらかな肩を露出させたオフショルダーのニットと、白いミニスカートに身を包んでいる。
キャメルのブーツを履いた足は見るからに華奢で、いわゆる「モテ系」だとか「愛され系」だとかに分類される感じだ。遠巻きに見ているだけだから、顔かたちはまだよく見えないけど、服装だけならそれはまさに藤沢のストライクゾーンど真ん中。
藤沢はこういうわかりやすい、女の子らしい女の子が好きなのだ。
しかし、今日の藤沢の連れはこの子ではない。
そのモテ系女子の隣で、女の子の方に体を向けるでもなくただただ佇む男。裕哉である。
裕哉は藤沢と同じく今年二十一になろうというのに、体つきはまるで少年めいていて、いまだに高校生や、下手したら中学生に間違われる。
それはおそらく、小学校に上がる前から今もずっと続けている野球のせいで、年中通して日に焼けていることも原因だ。
裕哉の野球バカはそれはもう筋金入りで、寝ても覚めても野球、ご飯を食べているときも野球、授業中もトイレタイムもとにかく野球、野球、野球。
哀れに思った友人が、とっておきの秘蔵本を貸してあげても、「このおっぱい、
公式ボールよりちっせぇな」といった具合だ。
なので、裕哉が女の子と話しているのなんて、小学一年生からの付き合いの藤沢ですら、数えるほどしか見たことがない。というかその気になれば数えられる自信すらある。

そんな裕哉が、藤沢好みのモテ系女子にぐいぐいと言い寄られている、ように見える。
藤沢は裕哉に頼まれたコーラの缶をぐっと握りしめた。
開封前なのでヘコみはしないが、手の中でベコンと間抜けな音をたてる。
それをポンポンと両手でキャッチボールしながら、ゆっくりと二人へと近づいていった。

あの子は可愛くありませんように。あの子は可愛くありませんように。

藤沢は、好みの女の子なら手当たり次第においしくいただく。
知り合う女の子なら可愛いに越したことはない。
でも裕哉に言い寄ってるあの女の子は、できるだけ可愛くありませんように。なぜかそう願った。
二人まであと数メートルといったところ。
間近で見えた女の子の顔は、十人中六人はかわいいと言いそうなレベルだった。
打率で言うと二割そこそこくらい。一軍に上がれるか微妙ってとこだな。いや、
上がれないな。上がれないよ。一軍の世界なめんな。
野球バカの誰かさんみたいなことをイライラつらつら考えていると、裕哉が藤沢に気づき、ホッと安堵の表情を浮かべる。
「なになに?何かおもしろい話?」
藤沢は人好きのする、しかし裕哉には常々うさんくさいと言われる笑顔で、二人に話しかけた。
「んや、駅の場所聞かれてただけ。なんか一人だから一緒に行って欲しいんだと」
言外に露骨にめんどくさそうなニュアンスを含めながら、藤沢連れて行ってあげてくんない?と、十センチ低いところから上目遣いでお願いしてきた。

「駅ならこの通路まっすぐ行った突き当たりだよ。直結の改札があるから、そこから入れる。一人でも迷わないと思うよ。すぐそこだから」

ここは郊外のショッピングモール。しかし郊外と言えど駅直結型なので、構内の案内板さえ見れば駅がどこかなんてわからないはずがないのだ。
わかりやすい逆ナンにも気づいてもらえない女子が哀れだ。でも仕方ない。相手は天下の『ヤラずのハタチ』様だぞ。

モテ系女子は、ありがとうございましたと丁寧に頭を下げると、駅とは反対側に走り出した。
ちょっと離れたところで待ち構えていたらしい友人ら数人と、きゃいきゃい言って盛り上がっている。ほら、やっぱり連れがいるんじゃないか。

「どしたの?あの子はナンパしねーの?」
「うん」
「藤沢らしくねーじゃん。あの子けっこう好きなタイプだろ」
「俺の好み、わかるんだ?」
「だいたいわかる。今の彼女・・・由美ちゃんだっけ?あの子もそんな感じじゃん」
「ああ、由美ちゃんは彼女じゃない」
同じゼミの由美ちゃんは言い寄られたのでおいしくいただいただけだ。その後そのお友達の香奈ちゃんまでもをおいしくいただき、手痛い修羅場を迎えたのはつい最近の話だ。
「裕哉だって久々に女の子と話せて嬉しかったんじゃないの?」
「んや、女の子ってやっぱうるせえ。あっちだって言ってんのになかなか行かねえし」
新しいグローブ早く見てぇのに、と一人ごちる裕哉を見て、こりゃこの先も当分童貞だろうなと藤沢は心中一人でつぶやいた。
しかし、女の子や、まして女の子の服装になんて耳掻きひとさじほどの興味もない裕哉が、意外と藤沢の好みを理解してる。なんだか悪くない。むしろ、けっこう嬉しい。
「じゃ、裕哉ご希望のグローブ見に行きますか」
「おー。ナンパすんなら俺がグローブ見てるときにして」
「ナンパなんてしないよ。なんかそういう気分じゃないし。てか、もう一生しないかも」
「は!?性欲魔神藤沢が何言ってんだよ!」
「なんか俺、女の子嫌いになっちゃった」
「はぁぁ!?」
「んー、なんかボーダーライン越えちゃった感じ?」

女の子は白いし、やわらかいし、かわいい。
でも、俺の裕哉は誘惑しないで。

「ボーダーライン越えたって、お前枯れるにはまだ早いだろーがよ!まだ二十一だぞ!?」
「枯れたとは違うよ。むしろギンギン。でも女の子はもう嫌い」
「わっけわかんねぇ・・・。てか俺のコーラは?」
「あぁこれ?開ける?俺の愛がブシューッと弾け出すよ」
「お前振ったの!?まじ最悪!!」

白くてやわらかい女の子は、もう嫌い。

黒くて硬くて骨っぽいお前がいい。

だからさ、弾け出す愛を受け止めてくれないかな?