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背中合わせの2人

 俺の住んでいるアパートは壁が薄い。
 隣に住んでいる人間の生活音なんかはもう、だだ漏れだ。
 ごつん。今日も俺の頭の裏側で、聞き慣れた音がした。
「また同じ場所にいんのかよ」
 床に直に敷いた布団代わりのベッドマットの上で胡座をかき、冷たい壁に背中を預けたまま俺はお決まりの独り言を漏らす。
「お前も大概暇人だよな。たまには誰かと飲みに行ったりしろよ」
 まあ、それは俺もなんだけど。
 ふひひ、と卑屈な笑い声が独りきりの部屋に転がる。
 俺はうなだれていた顔を起こし、頭を軽く壁にぶつける。
 ごつん。この音は壁の向こうに伝わっているんだろうか。
 一度だけ覗いたことのある隣室を思い出し、壁を挟んだ裏側で俺と同じような姿勢でいるであろう隣人を想像する。
「いっそ二人で遊ぶか? 孤独な奴同士、意外と俺たち気合うんじゃね?」
 顔も体格も無個性。
 性格も……まあ、内向的であることは確かだろう。
 典型的な喪男だ。
 俺は二十八歳童貞、恋人いない歴=年齢。引っ越しの挨拶以来話したこともないが、隣人もどうせ同じような人間だろう。
 平日は定時に会社から帰宅し、休日はどこに出かけるでもなく、ただ壁際に座り込んでいる。

「にしたって、部屋の内装まで似てるのは笑えるけどな」
 俺と奴の部屋は間取りが真逆。ちょうど壁を軸にして線対称。
 開けっ放しのドアから一度覗いたことのある隣室は、その軸に合わせたように俺の部屋の鏡写しだった。
 そのときの驚きを思い出し、ふっと鼻から笑いが漏れる。
 ごつん。俺の笑いに応えるように、壁の向こうからまた音がした。
 そのタイミングが妙に面白く、俺は大きく口を開けて笑う。
 だが今度は向こうからの反応はなく、冬の乾いた空気が喉を撫でただけだった。

「……寒いな」

 俺達の住んでいるアパートは壁が薄い。
 隣に住んでいる人間の熱なんかは、ちっとも伝えてくれないくせに。
 ごつん。今日も俺の頭の裏側で、聞き慣れた音がする。