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バカップルに振り回される友人

「あなたが乗りたいと言ったから、今日は二人の、観覧車記念日。なんつって。」
「は?なんですか、それ」
「なーんでも。昔の話。」


「…なあ、小林弟」
「なんですか」
「今日は何月何日何曜日だ」
「1月18日、日曜日ですけど」
「そうだな。じゃあここはどこだ」
「遊園地ですね」
「だよな。ちなみに小林弟、お前の性別は?」
「弟って自分で言っちゃってるじゃないですか」
「念のためだよ。…そうか、男なんだな。ふふふ、おかしいな、俺は今日お前の兄貴からダブルデートをしようと誘われてここに来たはずなんだけどな」
ちなみにその小林兄は現在、彼女である『ゆかたん』と一緒にコーヒーカップにて絶賛回転中である。宇宙の果てまで飛んでいってしまえばいいのに。
小林弟は「ああ」と何か思い出したように銀色の眼鏡フレームを中指で押し上げた。
「本当はちゃんとゆかさんの友達を連れてくる予定ではあったみたいですよ。でも、風邪ひいたとか。」
「…なんで代わりが男になってんだよ」
「たまたま居間に俺がいたからじゃないですか」
「せめて妹連れてこいよ。つーか断れよ、お前も!」
遊園地に来てまで本を読むくらいなら最初から来るなよ。明らかに遊園地を嘗めてるだろ。
そう言うと、小林弟は読んでいた文庫本をパタンと閉じて、じっと俺の眼を見た。
あ、なにこいつ、もっさいけど実はイケメンでやんの。
「な、なんだよ」
二つ年下の割に俺より年上に見えそうだ。変に威圧感がある。
「観覧車、乗りません?」
「は?」
予想外の言葉に間抜けな声を出してしまった。
観覧車?
「乗ったことないんですよ。ここって観覧車が大きくて有名なんですよね?」
俺の乗る・乗らないの返事も待たずに小林弟はさっさと鞄に本を仕舞い込み、向かいの椅子から立ち上がった。
仕方なく俺も飲んでいたジュースを喉に流し込み、慌てて付いて行く。
こいつ、興味なさそうに見えて本当は乗りたいものがあるから来たのか?
だとしたら、ちょっと可愛いじゃねえの。
「なあ、小林弟、」
「しょうじ」
半歩先を行く小林弟はそう言って立ち止まる。
しょうじ?障子?
「俺、しょうじ、って言うんです」
「あ、ああ、兄貴が正一だしな」
「小林弟じゃなくて名前で呼んでもらえますか。呼びにくそうだし。」
また、銀フレームを押し上げる。
指が長い、白い、綺麗。爪は短く切り揃えられている。
「松居さん?」
ぼうっとする俺に小林弟は小首を傾げる。なんだよその可愛い仕草。
「あ…、行こう、観覧車、乗るぞ」
やや挙動不審に先に歩き始める。
何を動揺してるんだ、こんな、男なんかに。しかもあの小林の弟に。いや小林の弟にしてはしっかりしてるけど。あなどりがたし小林弟…。

小林弟、2つ年下。名前は『しょうじ』。漢字は確実に障子ではない。お供に連れてきた本は水中都市・デンドロ…なんとか。公房の本だった。
それだけしか知らなかったのに、それ以上を知りたいと思った、1月18日の話。