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やさしいライオン

「……お前まで辞めるこたなかった」
「なに、潮時だったさ。あのオーナーの下じゃ、どのみち長くは働けなかった」
「俺はごめんもありがとうも言わないぞ。必要ないのに、勝手にかばったんだ、お前は」
舌打ちして、苛立ち紛れに壁をどんと叩く。
ベッドに腰掛けた男は、視線を軽く下げて、口元には微かに苦笑を浮かべている。
その穏やかな様子からは、さっきオーナーに激しく噛みついていた姿は想像できない。

まとめて首を切られた俺たちは、この店の寮となっているアパートの荷物を早々にまとめなければならなかった。
まあいい。これで、この狭い二人部屋ともお別れだ。奴との生活もここまでだ。
「……必要は、あったさ。お前が怒っていたものな」
焦燥にも似た苛立ちが募って、俺は突然泣き出しそうになった。
奴が味方してくれた時、一瞬嬉しさを感じた自分が嫌でしょうがなかった。

その哀しい穏やかな目で見られると、どうにも苦しいのだ。
俺なんか守らなくていい。たいしたものじゃないのだから、あのオーナーと同じようなモノなのだから。
その喉元にくらいつきたい。そうすれば、俺を喰い尽してくれるだろうか。
食い荒らして、骨なんて、その辺に捨ててくれて構わないのだ。