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冷たい手

大きな手が汗ばんだ頬を撫でる。
ゆっくり、ゆっくりとあやされるような赤ん坊の気分になったので、どういうつもりだと熱にかすんだ目で問いかけたら、大きな手の持ち主の、黒く澄みきった夜の葡萄みたいな瞳が、こちらの様子を案じて見守っているのが滲んだ視界にぼやけて見えた。
「僕の手は冷えているので、あなたの頬を撫でています」
その通りだ。確かにそうだ。男の手は大抵いつも冷えている。
そうして俺は、そのことを知っている。
「あなたが言ったんです。お前の手の冷たさには意味があると。手が冷たい奴は、その分心が温かいんだ、心配するなと」
確かにそうだ。その通りだ。いつかの日に、何かの拍子に俺が言った。どっかのドラマで使い捨てのセリフだったが。
「僕のことを。僕自身を、そんな風に肯定的に捉えてくれた人は、いなかったから」
だからこうして、あなたの頬を撫でていますと、大きな手で男は俺の頬を包んだ。
いつか俺の熱は冷たい指に吸い取られ、掌をぬるめたあと、空気中に分子のように散らばるだろう。そしたらその時は、今よりずうっと楽になっているだろうから。
その時は遠慮なく、俺の手を一晩でもいつまででも握っているといい、冷たさも温かさも包みこむその大きな手で。