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着物

「なぁ平和な時代に生まれていたら、おまえは今頃何してた?」
およそ状況に不釣り合いなのんびりした口調でおまえは問うた。

「俺か?俺は教師になりたかったんだ。今頃教鞭をとっていたかもな。」
「おまえらしいな。
 俺は家業が代々続く呉服屋でさ。長男だからきっと今頃粋に着物着こなして反物広げてたはずだ。」
「そうか、着物なんてお上品なものは俺には縁がないな。」
「…じゃあ悪くないか。」
「えっ?」
「だってそうだろ。俺が呉服屋の若旦那なら無粋なおまえとは巡り合うこともなかったろ?
 だから…この時代に生きた事も悪くなかったなって」

外は仮初めの静寂に包まれている。
退路も絶たれた我々に、もう援軍が来るはずもない事はわかっている。

「まぁまた縁あって巡り会えたら、とびきり粋な着物を仕立ててやるよ」
そう言って笑うとおまえは洞窟の岩肌に立て掛けてあった銃を肩に掛け、もう一つを俺に手渡した。

さぁ行こう。
銃を身構え二人で洞窟を飛び出す瞬間、俺はおまえの見立てなら着物も悪くないな、とふと思った。


一瞬闇を切り裂くように幾重にも重なった銃声が尾を引いて、再び辺りは静寂に包まれた。