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「チラシの裏にでも書いてろ」

明け方、屋根を打つ雨の音に目が覚める。
肌寒さを感じて隣にあるはずのぬくもりを求め手を伸ばすと、ひんやりとした冷たさが主の不在を示した。
それは同時に俺の頭を、昨日の怒りを蘇らせつつ覚醒させていった。
朝っぱらから不愉快極まりない気分だ。
雨だと言うのにチュンチュンピチュピチュ鳴く小鳥を煩く思い腹が立つ。
雨樋を伝ってポチャポチャ落ちる雨だれさえも俺をイラ付かせた。
二度寝する気にもなれやしない。
舌打ちしつつ寝床を出て水を飲みに台所へ行くと、瞋恚の源たる男がテーブルに突っ伏し寝ていた。
寒そうな肩をざまぁみろと憎々しく横目にしながら側を通り抜けようとすると、テーブル一面に何やら紙切れが散乱していることに気が付いた。
一体何事だと驚きながら見ると、それらは裏面の白いチラシ。
しかも、方眼紙にでも書いたのかと思うほど規則正しく隙間なくまっすぐびっしり字が書かれている…赤い文字で。
今月分のチラシは全て使い切ったのか、あと2日残っているにもかかわらず、10月のカレンダーまで犠牲になっていた。
力尽きた様で眠るあいつの手には、まだペンが握られたまま。
確かに…昨夜、大喧嘩をした際に、とは言っても俺が一方的に怒りまくりあいつは釈明の一手だったのだが、その際に、
あまりに小賢しい言い訳ばかりするもんで、これ以上聞いてられるかと、言いましたよ、言いましたね、言いました。
チラシの裏にでも書いてろと、捨て台詞の如く。
…これ、全部読まなきゃだめですか?

「ぅう…」と寝苦しそうなうめき声を上げて、あいつが顔をこちらに向けた。
起きたのかと思ったが、呆れるほどのアホ面がまだ夢の中にいることを教えた。
顔の下になっていた場所の文字がにじんでいるのは、涎が為したか、はたまた涙か。
見ていると何だか馬鹿馬鹿しくなって、俺の怒りは急速に萎えていった。
「わかってるよ」
そう言って俺は、デコに反転して写った赤い「愛してる」の文字に口付けた。