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接触過多な変態×常識人なツンデレ

扉を開け放つと同時に体をやわらかな光に包まれ、視界に満ちた清冽なまぶしさに、思わず息を呑んだ。窓際ではかすみの色のカーテンが風をはらんで波打ち、その合間を小魚の泳ぐように、白衣のナースが動き回っている。室内に備えられた二台のベッドのうちの片方には、午後の日差しを一身に受けて、所在無い様子で新見が腰を下ろしていた。

お友達ですか、はいそうです。必要な物を届けてくれるよう頼んだんです。いきなりの事でも頼れる奴が他にいなくて、などと二人が会話を交わしている間、紙袋を手にぶら下げ、服部はただ新見の頭部に白く巻きついた包帯を凝視していた。
「服部、そこ、邪魔」
扉の前に立ち尽くしたその脇を、ナースが一礼し、きりきりとした足取りで去っていく。後姿をぽかんと見送っていると、「いつまでそこにいるんだ、さっさと入れ」と苛立った声がした。
「済まなかったな、仕事帰りに」
「あ、ああ、平気。そっちは」
「頭と肩と、あちこちを打った。前に言ってた、例のビルの壁画修繕中に足場が崩れたんだ。高さは大したことがなかったけれど、色々検査をして、安静をとった方が良いらしい」
色の薄いシャツにジーンズと、新見は普段通りの格好をしている。
おそらく事故の時の服装のままなのだろう。ただ手首には、患者の取り違えを防ぐための認識票がブレスレットのように巻かれている。
短期入院患者専用の室内に今は二人以外の人影は無く、空のベッドに面積の半分を埋められた部屋は妙にがらんとしていた。

「い、痛いか、まだ」
「何しろ落ちたてだからな。それよりさっきから何なんだ、お前は。変におどつきやがって、借りてきた猫じゃねえかよ」
やましいことでもあるのかと胡乱な目つきを寄越されて、服部は大きな体を一段と縮ませた。
「なあ、今日は抱きついてこないんだな」
普段は剥がしても剥がしても藻みたいにへばりついてくるくせによ、と新見はそっぽを向いて呟いた。
「え、いや、オレは」
どっと肉の落ちたような背に服部は泡を食ったが、ほれ、と顎をしゃくられ、晒された喉に本能的に飛びついた。放り出した紙袋が壁に激突して沈黙する。頬に触れ、喉を撫で、肩の
稜線に指を這わせて腕ごと抱えこみ、包みこむ。大事な名前を呼んで、何度も唇に刻ませた。
「おい、そこでどうして乳首をさわるんだ」
「ああごめん、ついいつものくせで」
ラッピング用紙になったつもりで背中をゆっくりとさする。痛くはないかと耳元で囁いたが、返事の代わりは心地よさげな吐息だった。
「今日のことがきっかけで、高所恐怖症になっちまったらどうしよう。
ただでさえ作業に遅れを出してしまうのに、そんなことになったら、オレは」
「大丈夫、大丈夫だよ。君は根っからの高い所好きだから」
どういう意味だ、と激昂しかけた口元を指の腹で押し止める。新見の唇をなぞって往復させながら、大丈夫だよと繰り返す。それ以上騒ぐことは無かった。されるがままの様子に、どちらが猫の子だか分かりはしないと思いながら、この温もりを手放すまいと胸元に
繋ぎとめた。
数日の後、入院中に使用した下着をちょろまかしたことが露見して二時間ほど正座させられながら、ああいつもの新見だと、服部はほっと安堵の息を吐いたのだった。