スタイリー

それはスペースシップの格納庫にあった。
格納庫と言っても過去の遺物、何に使ったのか誰も知らないものさえ置いてある。

人類が地球を離れてすでに2000年、いやまだ2000年か。
現代では生命の誕生も政府の管理の元、最適な組み合わせの精子と卵子を抽出して試験管の中で行われ、胎児は羊水ドームの中で育つ。
当然のごとく結婚という紙面上の届け出制度も崩壊した。
いつしかSEXも堕落した精神の土壌となるという風潮が大勢を占めるようになり、愛の営みなど知らない者が殆どだ。
必要な運動もカプセルの中で寝ているだけで事足りる。

「なんだ、こんなところにいたのか。探したぞ」
星間の物資運搬の仕事をする仲間、いや俺の恋人が顔を出す。
「あっ悪い。なんかここ好きなんだよ。訳わかんないものばっかりだけどさ。
なぁ、これ何に使ったんだろうな?」
俺は二つ折りに畳まれていたそれをちょっと広げてみる。キキキィと言う音とともにそれは広がった。
「あぁそれね、そこに寝てみろよ」
言われるまま寝てみるが、腰が沈んでしまい安定が悪い。
「折り畳みベッドにしちゃ寝心地悪いな」
「それはこうやって使うんだ。これを握ってみろよ」
頭の上のポールを握ってみると重心変化につられてか腰の部分が持ち上がり逆V字型になる。
「おわっ、なんだよ、これ。元に戻せよ。」
「ははっ、そんな突っ張るなよ、力抜け」
緊張した筋肉を緩めると今度はV字に縮こまった。
「ああ、焦った。訳わかんねぇ器械だなあ」
「それを繰り返すんだ。身体を屈伸させて腹筋運動をするトレーニングマシンだったらしい。
確かスタイリーとか言ったかな」
「おまえって無駄に知識多いよな。
だけどこんなんで汗かいて体鍛えなきゃならないなんて時間の無駄だな」
「そうか?カプセルは便利だけど、昔のようにそうやって自分の身体を愛しんで、時間かけるのも悪くないって思うがな」
「う~ん、よく分かんねえや、全部コンピューターに任せとけば間違いないし。第一経験ないしな」

「愛を確かめるのだって同じだろ。
時間かけて汗かいてお互いを確かめ合うのもたまにはいいだろ?」
おまえはちょっと腰を屈めて、不安定なスタイリーに座る俺に口づけた。
「それって…男女間でも同性間でも自堕落だって…」
「自堕落なことかどうか自分で確かめてみろよ」
そう言うとおまえは俺を抱きしめて冷たい床の上で身体を重ねてきた。
深く唇を合わせ、ベルトを緩められ、シャツの下から直に触れられると、俺は経験したことのない感覚に戸惑い戦いた。
だけど身体を愛撫するおまえの優しい唇と手に愛しさがこみあげ、
俺はぎゅっとおまえの背中にしがみつき、おまえと肌を合わせることに夢中になった。



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最終更新:2011年04月27日 20:52