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オルゴール

たまたま遠出をしたら俺の好きな造りのアンティークショップが見つかったので、
こりゃいい拾い物だなーとか思いながら、表のショーケースを覗いてみた。
一番目立つところに置いてあるやけに古ぼけた箱が目に留まった。
宝石箱? にしてはちょっと小さいか? 薬箱? にしちゃ大きいか?
俺の好きな細工だ。ちょっと不細工だけれど、花象嵌はやっぱり良い。
っていうかメチャクチャ見覚えがあるような? と言うかこれ、は……
次の瞬間、扉を蹴破った。

「てーめえコレ俺の作った箱じゃねーか! なに売り物にしてんだよ!」
「やあ、お帰り。君いつ修行から帰って来ていたの?」
「ただいま! ついこの間だよ! お前こそ職人になったんじゃなかったのかよ!
なにアンティークショップ開いてんだよ! 象嵌職人になった俺の立場は何処よ!」
「これは単なる親戚の店番だよ。君が出て行く前からこの店はあったでしょうが。
…で、君はどうして帰って来たのに俺の前に顔を出さないの」
「な…何となく恥ずかしいからだよ! あと一週間くらいしたら来ようと思」
「どうせそういうことしてるんだろうなぁと思ったから目立つように飾っておいたの。
見つけたら君、絶対に飛び込んでくるだろうなと。実際そうだったわけだしね」
懐かしい顔が呆れ顔で立ち上がり、飾ってあった箱を手に取る。
きり、とネジを巻く音。その直後、鈴が転がるような音色が響いた。
「ほら。ちゃんと中身を入れて待っていたんだよ、僕は」
「……おまえ、本当にちゃんと職人になったのかよ……」
「そうでなきゃ君が象嵌職人になるのをむざむざ送り出すはずがないでしょう」
にこりと笑って、彼がいびつな箱からいびつなオルゴールになったそれを撫でる。
昔と変わらない綺麗な指先は、今では新たに音すら生み出せるようになったらしい。
「やっと二人で作れるね。君が作って、僕が作って、そして一つのものになる。素敵だね」
歌うような口調に合わせて、透明な音色が静かに高く響き渡る。
寂しかったけれど辛かったけれど、負けなくて良かった。
彼の前で胸を張れる男になれて良かった。
「…別れで泣かず、再会で泣くとは君らしいなあ」
優しい声が高音の旋律と一緒に包み込み、抱きしめられる。
天上の音楽とはこのことかと、恥ずかしげもなく思った。