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年上ドジっ子

茶筒を開ければ茶葉をぶちまけ、
急須の蓋は閉めたままでお湯を注ぎ、
跳ねたお湯の熱さに驚いて急須を落す。

あまりに期待を裏切らない行為の数々に、俺は笑いを堪えることができなかった。
背後から突然聞こえた笑い声に、部長が振り向く。
「…黙ってみてるなんて人が悪いな」
ばつが悪そうにちょっと頬を赤らめて、俺を睨みつけた。
「すみません、部長がご自分でお茶を淹れるなんてあんまり珍しかったので」
「どうせお茶ひとつまともに淹れられない不器用者ですよ、俺は。お前代わりにやれ、笑った罰」
そう言って不貞腐れた顔をした部長は半歩身をずらして俺を呼び込んだ。
「はいはい、よろこんで」
「…みんなとメシ行かなかったのか?」
「給料日前の節約生活中でして…部長は弁当ですか」
「いや、俺もカップ麺」
珍しい、と思ったが何となく口には出さなかった。
ガサゴソとコンビニ袋からカップ麺を取り出した部長は、カップをしたから眺めるようにぐるりと一回転させてから、蓋を開けて薬缶を傾けようとした。
「加薬はお湯を注ぐ前に入れるんですよ?」
「…わかってる」
ゆっくりと薬缶を元に戻して、加薬とスープの基を探し出し、カップに入れる。
唇を尖らせて俯きがちな様を側で見ていると、もう、どうしても顔が緩んでしまう。
なんて…
「お前のもやってやるからよこせ」
なんて、可愛い人なんだろう。

薬缶をそんな上から傾けたら、スープが跳ねてほら、シャツに飛んだ。
「あ…」
俺を睨んでもダメです。俺の所為じゃなんだから。
「すぐ洗わないとシミになりますよ。あ、そんな擦ったら余計に」
見ていられず、近くにあった濡れ布巾を取って、部長のシャツの裾を引っ張り出し揉み叩いた。
「うーん…やっぱり拭いただけじゃダメですね。帰ったらちゃんと奥さんに洗ってもらってください」
そう俺が言うと、部長が短くため息をついて、ぼそりと呟いた。
「出ってた」
顔を上げると目が合った。
「…先週、出ってった…女房」
「………」
「…笑え」

笑えませんね。
黒い尻尾が生えたヤツが俺に何か囁きかけているので。