典型的B型×典型的A型

「ああもう、何だよこれ!使い終わったもんは片付けろって言ったじゃないか!」
「えー、使い終わってねーよ!だから置いてある」
「その割には、お前はそっちの部屋でTV見てるようだけどな?」
「だって見たい番組はじまっちゃったんだもん。見ねえと」

地団駄を踏みたい気分だ。マンション住まいに不満はないが、こういうとき不便だ。
一年前、前の彼女と同棲していた際にも、十分思い知ったことだった。
「結局、他人だっていうのが問題なんだ。男だ女だのっていうのは問題じゃなかったんだな。
 家族じゃない人間と一緒に暮らすなら、よっぽど慎重になって、
 うまくやっていけそうな相手を選ばなきゃ駄目ってことなんだ…」
ぶつぶついいながら冷蔵庫をのぞいていると、いつのまにかBが背後に立っていた。
「他人なんて寂しいこと言うなよ。おれとAの仲じゃないか」
「ほほう。俺とお前がどんな仲だって?」
「Hした仲」
かっと頭に血が昇る。心臓が大きく鳴る。
「ひょっとしてお前、なかったことにしようとしてるのか?あれを」
固まって動けなくなる。俺は目の前の牛乳パックをにらみつけて、なんとか声を絞り出した。
「だったら、悪いか?」
「悪いも何も、やっちゃったことは事実だろ」
「……お前も忘れろよ。あの時のことは、俺の理解の範疇をこえてる」
冷蔵庫の、扉の閉め忘れを知らせるブザーが鳴る。
「そんなもん、おれの理解の範疇だって超えてるさ」
そこでやっと、俺は振り返った。振り返ることができたのは、Bの声が微かに震えていたからだった。

「よく言うよな、A。何でそんなこと言えるんだ?
 おれには慎重になるヒマもなければ、お前以外に選ぶ余地も、もう、ないぞ」
彼はダイニングテーブルにもたれかかって、無理矢理笑ってみせた。
「……いろいろすっとばし過ぎなんだ、B」
二人の距離は1m半ほどだった。
人と人とが、快適を保てる距離、か……。
「他人の懐に入るには……普通、順序ってもんが、要るんだよ」
「わかんねえよ。どうやるんだよ、それ。時々、お前の言う普通っていうのが、わかんなくなるんだ」
テーブルの端をきつく握りしめて、笑ったまま、彼はうつむいてしまった。
どうやるってか。
どうすればいいんだろう。
そうだな。
とりあえず、泣きそうな子がいたら、肩を抱いてやればいいのかな。

後ろ手に冷蔵庫を閉めて、俺はその距離を踏み出した。



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最終更新:2011年04月27日 19:35