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こそどろ×騎士

冷え切った地下牢に靴音が高く響く。
現れた男は灯火を掲げ持ち、永遠とも思われていた闇が静かに拭い去られた。
ほの暗い光の中に浮かぶ顔は傲然とし、緑の双眸が無遠慮に囚人へと
注がれる。牢の中には壁の鎖に繋がれた男が一人きり。そう面白い見物でも
ない。しばし宙で視線をかち合わせた後、牢番の兵士に外で待機するよう指示し、
男は腰の剣をがちゃつかせながら、囚人、つまり俺の眼前にまで迫ってきた。
「罪状はパンの窃盗。せこい盗みだ。わざわざ私が出張らずとも、鞭打ちの
十もくれて放り出せば済む話だったのだ。こいつの事さえ無ければな」
そう吐き捨てると、ザラリと金鎖の音をさせ、獅子の刻まれたロケットを鼻先に
つきつける。
「貴様にはふさわしくない代物だ。ケチなこそどろの分際で、これを私に見せる
よう頼んだそうだな。驚いたよ。まさか、こいつが私の手に戻る日がこようとは」
皮の手袋に包まれた指がパチリとロケットの蓋を弾く。小さな装身具の内部に
密やかに納められていたのは、一人の男の肖像だ。俺のよく知っている男。

「あんたです」男は眉尻を下げ、顔を悲愴に歪ませた。
「5年前に蒸発するまでのあんたの顔です、先輩。あんたが城を去るときに
私からかっぱらっていったやつですよ」
ああ、あの時は思い出に何かひとつ、いただいていこうかと考えただけで。
まさかこいつのロケットに、俺自身の肖像が入ってるとは思わねえもんよ。
「今までどこ行ってたんですか。あんたが自由と放埓とやらを求めて城を
出奔した後五年間、私がどれだけ苦労したと思ってんですかー!」
悲鳴をあげるように叫ぶと、男はわーんと泣き伏した。両手を繋がれ、冷たい
石畳に尻をつけている俺の膝に、だ。あやしてやることもできず、俺はじっと
涙と鼻水がズボンの布地に染みてくるのを感じていた。
誰に泣かれようと、戻るつもりは無かった。どこまで落ちぶれようと、
詩人のような奔放な暮らし、それ以上に魅力的なものなど無いと信じていた。
ただ近年城下に出没する、ある盗賊一味、奴らの真の狙いが警備隊長の
暗殺にあると知れたなら話は別だ。例えどんなに細く切れやすくとも、五年の間、
浮き沈みの激しい身を支えてくれたのは紛れもない、一本の金の鎖だった。
さてそれをどうやって伝えるべきか。
べーべー泣き崩れている隊長殿を膝に抱え、俺は途方に暮れた。