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使い捨て

あなたと僕が出会ったのは早朝の駅でしたね。
あの日僕達は学生用のアパートの広告とセットにされて配られていました。
そして僕を手に取ったのが、あなただったんです。
寒い日でしたからね、あなたはすぐに袋を破り僕を取り出しました。
あなたの手はとても冷たかった。だから必死であたためました。
お守りと、小さなチョコレートが入っているあなたのポケットの中。
僕を握ってだんだんあたたまっていくあなたの手がとても嬉しかったのを憶えています。
あなたが建物の中に入ってしばらくすると、男の人が話している声が聞こえました。
今日はセンター試験という日らしい、と理解したとき、
暖房がきいていて寒くないはずなのに、あなたが僕を握りしめました。
その手が震えている理由は僕には分からなかったけれど。
僕は一生懸命あなたをあたためました。
なぜだかあなたも一生懸命な気がしたから。
そんなあなたの力になりたいと思ったから。
僕はあなたをあたためました。

あなたが再び僕に触れてくれた頃には外はもうすっかり暗くなっていました。
その頃には僕にはあなたをあたためる力は少ししか残ってなかったけれど。
僕に触れるあなたの手が嬉しくて、最後の力を振り絞って一生懸命あたためました。
あなたの家に着く頃にはほとんど力を使い果たしてしまいました。
意識が薄れる中見たあなたの部屋には使い込んだ厚い本がたくさん並んでいて。
今日はあなたにとってとても大事な日だったと知りました。
もう僕はあなたをあたためる事はできないけれど。
もうあなたが僕に触れてくれる事はないけれど。
あなたのとても大事な日、僕はあなたの力になれましたか?
もうすぐ僕なんかいらないぐらいあたたかくなります。
きれいな桜の花が咲く。あなたは笑って見てください。
今日一日、あなたのものになれたこと。
あなたをあたためられて、あなたに捨てられて。
僕はとても幸せです。