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年越しの瞬間

2008年が終わろうとしている。
去年の年末は大変だった。
卒論が終わらないという理由で家には帰らず
浩二と2人、研究室にこもって年を越した。
卒論を控えた学生は年末年始も校舎に出入りしてよし、という大学側の懐の広さを
2人して恨んだり有り難がったりしたことを覚えている。
結局集中力が続かず、何だかんだと理由をつけて近所の神社に初詣に行き
あまつさえ三社参りまでしてしまった。
すごく楽しかった。
――その後は卒論地獄が待っていたけれど。

今年は家族と一緒にのんびりと年を越す。
浩二も俺も、もう社会人だ。
もともと互いの自宅はそう遠くないのだが、特別近所というわけでもない。
職場も違う。
もう、2人で年末を過ごす言い訳は見つからない。

歌合戦、除夜の鐘、カウントダウン。
去年はなかった穏やかな時間。
日づけが12月31日から1月1日に変わり、
止めようもなく年月が過ぎ去っていくことを、俺は少しだけ悲しんだ。

「明けましておめっとさん!」
「明けましておめでとう」
元旦――というにはちょっと遅いだろうか。
元日の11時ごろ、浩二から電話があった。
「はー今年の年末はすげーかったるかった! 爺ちゃんに延々長話聞かされてさー」
「今年の年末は約1年後だよ」
「んでさ、お前もう初詣行った?」
「うん……家族と」
「そか。三社?」
「いや、一社だけ。妹が風邪気味だったから」
「じゃあさ、今からあと二社回ろうぜ! 俺おみくじ大凶だったんだよなー。引き直さないと」
そういえば、こいつは去年も詣でた神社全部でおみくじを引いていた。
「爺ちゃんが足悪くてさー、俺も一社しか参ってないんだ」
携帯から浩二の声が聞こえる。去年と少しも変わらない声だった。
「引き直すって、いくつも引いたら意味ないじゃん。
 だいたいおみくじってのは、吉凶よりもそれに関する説明の方が大事なんだから」
「お前、去年もそんなこと言ってたよなー。
 まあいいじゃん、俺はおみくじ開く瞬間が楽しくて50円払ってんだよ」
ああ、それも去年聞いた。
――おみくじって、中身見るときわくわくしねえ?
そのわくわくを味わうために何回でも引きたくなるのだと浩二は笑った。
「ったく、相変わらずだなー」
しょうがないから付き合ってやるよと言うと、浩二は
「悪いなー」
と、ちっとも悪いと思っていなさそうな声でそう言った。
すごく嬉しそうな声だった。

待ち合わせのために時間と場所を決めて通話を切る。
俺はふと、去年引いたおみくじの一文を思い出した。
――機を逃さぬことが肝要。
あれは就職の項だったかな。いや、学業? 金運?
なぜ急に思い出したんだろうと、俺は不思議に思って首をひねった。