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強気メイド×弱気ご主人

「!」
朝の忙しい時だと言うのに、メイドは思わずその足を止めた。
主人の様子がおかしい。
シャツを身につけ、カフスももう留めた筈なのに、やや下に向けた顔は上がる素振りさえ見せない。
「どうかなさいました?」
「あー……。んー……」
そんなメイドの問いかけにも、主人はイマイチ色の良い返事をしない。
メイドは主人に歩み寄り理由を問った。
「……何です?」
「いやー……今日のタイどれにしようかと思ってさぁ」
そうして並べられた幾つものタイ。
最早、この主人に遣える様になってからこんな状況は珍しくなくなってしまった。
「これにしましょう」
そうしてメイドが迷わず手に取ったのは重厚なワインレッドのタイ。
黒の格子が幾重にも連なったそれは、シンプルだが今日のコーディネートにも申し分ない程合っている。
「これぇ?これで良い?」
「不服ですか?」
「……いや、そう言う訳じゃないけど」
「じゃあこれにしましょう」
「んー……」
「いいんですか?
これにしちゃいますよ?
もう結んじゃいますからね?」
そう言ってメイドはタイを掴み上げ主人の首元に巻き付ける。
そうして整えられたタイを指先で直しながら主人はじっと姿見を見つめていた。
その様に目を留めたメイドが口を開く。
「……何ですか?もう気に食わないとか言っても駄目ですよ」
「いや、そうじゃなくて」
主人は造作もない口調で宣った。
「君が選んでくれたものだからさ、流石。中々良いなと思って」
そう呟いた主人は知らない。
そんなたった一言に、一瞬にしてメイドがバツの悪そうな顔を真っ赤に染めたと言う事を。