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同棲を始めた2人が家事当番でもめる

なんで、俺が家事しちゃ駄目なんだよ」
 そう言って、彼は困惑したように僕を見つめた。
「駄目とは言ってない。僕がやると言ってるだけだ」
 淡と応えて。僕は洗い物を手早くかつ丁寧に布巾で拭き取ると、
 皿を種類別に、同間隔を開けて、規則的に積み上げていく。

 決められた手順に則った僕の作業に手を出せずに、
 少し離れた場所で、手をこまねいて、彼は眉を寄せた。
「……それってつまり、俺がしちゃ駄目って事っしょ?」
「そうじゃない」
「何が違うの。俺が、手出したら邪魔?」
「そういうことじゃない」
 きちんと決まった数で重ねた食器を、
 隙を空けずに整えた棚の中に一組ずつ仕舞っていく。
 そんな食器も、食器棚も、家中の家具も。この部屋すら、全ては僕が調えたものだ。
 彼は不服げに片眉を上げて、「大体さ」と呟いた。
「なんでお前って、そう、何でもかんでも一人で決めちゃうの」 
 僕は応えない。ただ、微かに眉を上下させる。
 そうすれば、彼は不貞腐れたように俯きながらも、黙り込んでしまうのだった。
 それを、ふと視線だけで振り返る。
 彼と出会ったばかりの頃。彼は、もっと自己主張の強い人間だった。
 ──いつの間にか、彼の生活の全てを僕が取り仕切っていることを、彼は気付いているのだろうか。
 取り仕切られて、それでも僕の行為に最終的に口出し出来なくなっている、自分に。

 彼の全てを僕が調え、彼の全てを……その生活を、生命すらを、僕が支配する。
「不服か?」
 僕は、薄く口端で笑んだ。
 少し詰まってから、彼は俯いたまま緩々と首を振った。
「……いい子だ」


 彼は、無言で顔を顰めた。